追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
一ミリの狂いもないほど完璧に各パーツが配置された端正な容貌で顔を覗き込まれ、心臓が早鐘を打つ。

これは実験だ、わたしは被験体だと自分に言い聞かせてしばらく耐えてはいたものの、過ぎたる触れ合いはわたしの心を限界に追い込んだ。

「あの、体調は大丈夫なんですけど、今日の実験はここまでにしていただけませんか……?」

結局わたしは自ら実験の停止を願い出た。

相変わらずどんな反応も見逃すまいとわたしの様子を冷静に観察していたレイビス様は、その言葉にピタリと視線を止める。

そしてわたしと目を合わせると、その真意を問うてきた。

「その理由は? まだ今日の実験は始めたばかりだ」

「……こ、心が限界だからです」

「限界? 心が? 意味がわからない」

わたしの訴えをレイビス様は意味不明だと一蹴する。

でもわたしはもう無理だ。
気を抜くと今にもへたり込んでしまいそうなのである。

「わたしは恋人がいた経験もなく、男性に慣れていません! だから女性に慣れていて余裕があるレイビス様と違って恋人同士が行う行為を平然とこなすことは難しいんです! 刺激が強すぎて心の負担が大きいんです……!」

だからついあまりにも率直な心の声が口をついて出てしまった。

わたしの真剣な心の叫びを聞いたレイビス様は、感情の乏しい整った顔を崩すことはなかったが、目だけパチパチと何度か瞬きを繰り返した。

しばらくして訴えを咀嚼したのか、おもむろに触れていた手をわたしから離す。

レイビス様の温もりが遠ざかっていき、わたしはほっと一息ついた。同時にあれほど離して欲しかったのに、少しばかり寂しさが胸を駆け抜け不思議に思う。
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