追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「……その、悪かったな」

その時、レイビス様が少しばかりバッが悪そうな様子で口を開いた。

「研究のこととなると、周りが見えなくなるのは私の悪い癖だ。恋人同士の行為により治癒魔法が取り戻せるかもしれないという仮説を検証するのに夢中になっていたようだ」

「いえ、こちらこそ被験体でありながら、ご希望に沿った実験を進められず申し訳ありません」
 
「いや、構わない。確かに性急すぎたかもしれないな。もう少しじっくり進めることにしよう」

「そうして頂けると助かります」

どうやらわたしの心の叫びが届いたようだ。

これからは慣れる猶予を得られそうだし、心に余裕が生まれそうで安堵の息が溢れた。

「ああ、一つだけ訂正しておく」

「? なんでしょうか?」

「ティナは私が女性に慣れていると言ったが、それは事実ではない。私も君と同じだ。別に慣れてはいない」

「えっ……」

告げられた事実は意外すぎて、わたしは思わず目を丸くする。

慣れてないようにはとても思えなかった。
流れるような動作で触れられ、ドキドキさせられたばかりだから信じられない。

でもレイビス様は嘘をつくような人ではないと思う。わざわざ慣れていないと告白する利点もないだろう。

 ……じゃあ本当に? レイビス様も過去に恋人はいなくって、こういう触れ合いは初めてってことなの?

それを知って、ちょっとばかり心が浮き立つのはなぜだろうか。

こうして本日の実験はここまでとなった。

また来週にと言葉を交わしてレイビス様は帰って行った。

そしてレイビス様はこの日以降、「じっくり進める」という約束を本当に守ってくれて、二回目で経験した以上の行為はしてこなかった。

つまり、「見つめ合い」と「手や頬への触れ合い」のみだ。

だけど……

 ……手を繋ぎながら手の甲や指をスリスリしたり、頬をするりと撫でたり、なにかしら毎回変化が加わっていて結局ドキドキしてしまうわ……!

残念なことに、実験の回数を重ねても一向にわたしに余裕は生まれなかった。
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