追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
一瞬そのまま答えてしまいそうになったが、思いとどまった。

厳密に言えば、この研究は完全なる趣味というわけでもない。王家からの頼まれごとでもある。それに治癒魔法に関する研究をしていることが漏れれば、教会が横槍を入れてきかねない。

返答するまでの短い間でそれらが頭の中を瞬時に駆け巡った私は、結局機密事項にあたるから話せないと言葉を返した。

「機密ということは、察するに王家も絡んでいるんじゃないですか? それならちょうど午後に王太子殿下と面会されるんですから、意見を聞いてみたらどうです? 王太子殿下は魔法に関して造詣が深い方ですし、なにか新しい着眼点を得られるかもしれませんよ」

察しの良いサウロは、機密という言葉だけで大体の事情が分かってしまったようだ。

そして実に建設的な意見を述べてきた。

 ……確かに。アルヴィンになら現状報告も兼ねて意見を求めてみてもいいかもな。ちょうど次の段階に進みたいところでもあるし。

「そうだな、そうしてみよう。……それで面会は何時だ? 午後に新人魔法師への指導が予定されていたと記憶してるが」

「夕食前にとのことです。新人魔法師への指導の件はご心配なく。副団長に依頼しましたので調整済みです」

「さすがサウロだな。助かる」

サウロはやはり優秀だ。
彼が補佐官として手際よく執務を捌いてくれるから、私は余計な雑務に手を煩わされず、こうして研究に没頭できる。

サウロを労いながら、私は万年筆を机に置く。研究の考察は一旦休止だ。心置きなく研究に熱中するためにも、自身に課された仕事はこなす必要がある。

頼りになる補佐官がいい笑顔をしてドサっと持ってきた各種報告書に私は目を通し始めるのだった。

◇◇◇

「悪いね、レイビス。わざわざ時間をとってもらって。予定は大丈夫だった?」

「補佐官が調整してくれたから問題ない。私もちょうどアルヴィンに聞きたいことがあったからむしろ都合が良かった」

「へぇ、僕に? 何を聞きたいの?」

「アルヴィンの方が話があるんだろう? それはいいのか?」
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