追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
西空が橙色に染まり、静かに夜の気配が近づいてきた頃、私はアルヴィンの私室を訪れていた。

私室という極めてプライベートな空間を面会の場所として指定するあたり、かなり内密な話があるようだ。

それを察していたため、アルヴィンに尋ねたいことはあるものの、まずは本題をと配慮したのだが、アルヴィンは軽く笑って私に先を促した。

どうやら単純に私からの質問に興味を引かれているようである。

「それじゃ遠慮なく聞くが、恋人を相手に見つめ合いや、手や頬への身体的接触を果たしたら、次の段階は何をすべきだと思う?」

「へ⁉︎ 恋人……⁉︎」

余計な前提は省き、核心の部分のみを率直に尋ねたところ、アルヴィンは鳩が豆鉄砲を食ったようになってしまった。

「アルヴィンは妻もいるし、そういったことに知見があるだろう? リキャルドに聞く手も考えたが、あいつがいつも相手にしてるのは恋人ではなく、遊びの女ばかりだからな。参考にならないと判断した。それで何をすべ――……」

アルヴィンが黙ったままのため、私はなぜアルヴィンに尋ねているのか理由を重ねて説明する。

その間に絶句して固まっていたアルヴィンは平常運転に戻ってきたようで、私の言葉を遮って「いやいやいや」とツッコミを入れてきた。

「レイビス、ちょっとストップ! なぜ僕に尋ねてきたのか理由は分かった。他でもないレイビスからの質問だから僕も真摯に答えると約束するよ。……ただ! ただその前に!」

「なんだ?」

「レイビスに恋人が出来たって理解でいいんだよね⁉︎ 女性にまったく興味がなかったあのレイビスに! いつから⁉︎ 相手は⁉︎」

立て続けに問われ、そこでようやく私は自分の失態を自覚した。

これが研究の話だと伝えていなかったのだ。

さらに言えば、研究の核となっている仮説についても確かアルヴィンには話していなかったと思う。

「悪い。この話の前提を伝えそびれていた」

「前提? どういうこと?」

「実は今のは、この前言っていた治癒魔法を取り戻す研究の話だ」

「えっ、研究? それと恋人がどう繋がるの? 話が見えないんだけど……」
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