追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
それから力を蓄えて再び仕掛けてきたのが、十年前の大戦なのだという。

「僕も大戦当時は成人前の十四歳で、そのさらに十年前に起きたという密通事件は知らなかったんだ。先日父上から教えられてね。レイビスは知ってた?」

「いや、私も初耳だ」

「どうやらサラバン帝国は、戦争を仕掛ける前に内部から攻めようとする傾向があるらしい。工作員が放たれていたり、うちの貴族が取り込まれていたりね。今回もその可能性があるかもしれない。だから、レイビスにはくれぐれも身辺に留意して欲しいんだ」

「分かった。重々気をつける」

アルヴィンからの注意喚起に私は深く頷き、真摯に受け止めた。

なにしろ私は、国境領を守護するフィアストン公爵家の嫡男であり、武力において騎士団と双璧をなす魔法師団の団長である。

敵国にとって間違いなく邪魔な人物の一人のはずだ。

 ……有事に備えてやはり一刻も早くティナには治癒魔法を取り戻してもらわないとな。

両国の緊張感が高まる中、以前アルヴィンが言っていた通り、魔力量が桁違いに豊富なティナのチカラがあるか否かは勝敗に影響してくるだろう。

アルヴィンの私室を後にした私は、シンと静まり返った王宮の廊下を一人歩く。

研究熱は今やひっそりと影を潜め、代わって切実な使命感が胸に宿っていた。
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