追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
褒められた、と脳が認識するまでにしばしの時間を要してしまうほど予想外すぎる言葉だった。

しかも表情はいつもの無表情のままであるから、余計に混乱させられる。

 ……レ、レイビス様がわたしの装いを褒めてくれた? いつも研究に関することしか口にしないあのレイビス様が……?

人に褒められるとやっぱり素直に嬉しい。それが雲の上のような存在の素敵な男性であれば尚更だ。

先程の一言による喜びがじわじわと心に広がるにつれ、なんだか頬が熱くなってきた。

「ではそろそろ行くか。中心街までは瞬間移動魔法で飛ぶ。私の手を握っていてくれ」

そう言って血管の浮いた骨ばった大きな手を差し出されたが、これまでの実験で何度となく触れて大分慣れてきたはずなのに、今日はいつにも増して胸がドキドキしてしまった。

レイビス様はしっかりと手が繋がれたことを視認すると、耳に心地良い声で呪文を唱える。

思わずうっとり聞き惚れそうになっていたら、目の前の景色がゆらりと歪み、次の瞬間には市場のすぐ近くに降り立っていた。

 ……初めて瞬間移動魔法を経験したけれど、本当にすごい。一瞬だわ……!

国内でも片手で数えられるほどしか使い手がいないと言われている魔法である。そもそも経験者などほぼいないだろう。

つまり非常に貴重な体験をさせてもらったわけだが、それをもたらした当の本人は、日常的に自分が使っているからか、ごく普通の出来事として捉えているようだ。

改めてレイビス様が天才と呼ばれるエリート魔法師である事実を身に沁みて感じる。

 ……そんな方の隣に並び立って街歩きをするなんて恐れ多いわ。

尊敬の念から少し距離を取ろうと、一歩下がりながらわたしは手を離そうとした。

ところが、その動きを阻止するかのようにグイッと手を引かれ、逆に距離が近くなってしまう。

「なぜ離れようとするんだ? これまでの実験で距離感が近い方が効果がありそうだという見解が出ているだろう?」

不可解そうに一瞬眉を寄せたレイビス様は、あろうことか繋いだ手をそのままに市場の方へ歩き始めた。

 ……えっ、もしかしてこの手繋ぎ状態で街歩きをするの⁉︎
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