追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
てっきり手に触れるのは瞬間移動魔法の時だけだと思っていた。

これではまるっきり恋人同士のデートみたいだ。

 ……でもそうよね。これは実験だもの。恋人同士がする行為を試す必要があるものね……!

軽く深呼吸をして、無駄に胸の鼓動が速くなるのをなんとか抑え込み、わたしはレイビス様の隣を歩く。

方向的に向かっているのは川沿いに位置するあのテント式市場のようだ。レイビス様の足取りには迷いがない。この辺りの地理も把握しているのだろう。

さすがフィアストン領を治める領主様のご子息だ。

 ……でも、それにしてはなんだかおかしいわね……?

そこでわたしは辺りを見渡してふとある異常に気づく。

街行く人々がレイビス様に目を向けていないのだ。

レイビス様は色んな意味で目立つ。その容姿であったり、立場であったり、周囲の目を引く要素しかないと言えるだろう。

それなのにすれ違っても誰も気に留めていない状況に違和感しかない。

「……あの、もしかして今なにか魔法を使っていたりしますか?」

「よくわかったな。認識阻害魔法だ。ティナ以外の者からは私の顔が識別できないようにしている」

どうりで誰の視線も感じないわけだ。

それにしても瞬間移動魔法に続き、またしても高難度の魔法をサラリと告げられて驚く。

レイビス様はまるで息をするかのように、様々な魔法を使いこなしていて、本当にすごい才能だと尊敬の念を抱いた。

 ……もしかしてわたしと街歩きをするのを人に見られたくなかったのかな? 恋人だと誤解されたら困るものね……。

自由自在に難度の高い魔法を使えるとはいえ、今わざわざ使用する理由に思い当たり、なぜか心が暗く沈む。

さっきからわたしの心は上がったり、下がったり、非常に慌ただしいのは気のせいだろうか。
 
そんな疑問に内心首を傾げていると、レイビス様はこちらから尋ねるまでもなく魔法を使用している理由について語り出した。

「ちなみに認識阻害魔法を使ってるのは余計な邪魔をされないためだ。デートを通してティナと心の触れ合いを成し遂げる必要があるからな」

「こ、心の触れ合い、ですか……?」
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