追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
どうやら今回の実験の主目的がこれのようだ。

今までの実験の方向性から大きく舵を切ったように思う。

「友人曰く、身体的な接触だけでなく、心の触れ合いも恋人同士には重要な要素らしい。これまでの検証と違って観察しにくいため、なにか反応を感じ取ったら申し出てほしい」

「はい、わかりました」

了承の返答をしつつも、心の触れ合いという抽象的な言葉にわたしはいまいちピンと来ていなかった。

だが、後に振り返った時、この実験がいかに危険なものであったかをわたしは知ることになる。

◇◇◇

「久しぶりに来たが、さすがに市場は活気があるな。他国の商人らしき者もいるようだ」

「わたしはフィアストン領に住まわせて頂くようになってから何度か来ましたが、いつも盛況ですよ。さすが国内有数の交易都市だなと感じます」

店を見て回る人々の熱気と騒めき、客引きをする店主の声、辺りに鳴り響く楽しげな音楽、食欲を刺激する香ばしい匂い――今日も今日とて、市場は活気に満ち溢れている。

そんな市場をレイビス様とわたしは手を繋いで歩きながら、所狭しと並んでいるテント式屋台を見て回っていた。

レイビス様は領地の視察も兼ねているのか、真剣な眼差しで人々の状況を見ている。

その姿は、実験の際にどんな小さな反応も見逃すまいとじっとわたしを観察する時の様子とそっくりだった。

その真面目で熱心な姿が、今この場においては少しばかり浮いていて、なんだか妙に可愛く感じてしまう。

レイビス様に対して可愛いなんて失礼極まりない感想なのだが、無意識にわたしはふふっと小さく笑みを零していた。

「おっ、この前のお姉さんじゃないか! 今日は恋人と一緒かい? 随分とご機嫌だねぇ! また一本食べてかないかい?」

ちょうどその時、以前来た時に美味しく戴いた串焼きのお店の前を通りかかった。

わたしに気がついた店主がこの前と同じように陽気な声で話し掛けてくる。

ただ、その言葉の中に聞き逃せない一言が含まれており、途端にわたしは恥ずかしさで頬を赤く染めた。

 ……こ、恋人!

確かに恋人同士のように過ごしているわけだが、どうやら第三者からもそう見えるらしいと分かると、どうしようもなく面映ゆい。
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