追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
なんとなくレイビス様の反応が気になって横目でそろりと様子を窺う。

レイビス様の整った顔は変わらず無表情で、目立った反応は浮かんでいない。だが、どことなく嬉しそうにわたしの耳元で囁いた。

「私達はちゃんと恋人同士に見えるようだな。これまで積み重ねた実験の成果に違いない。……ところで彼はやけにティナに親しげだが、知り合いなのか?」

「い、いえ! 以前市場に来た時にこちらで串焼きを購入して美味しく食べさせて頂いただけです……!」

話し掛けられた際に耳にレイビス様の息がかかり、くすぐったさと恥じらいで声が裏返りそうになるのをグッと耐えた。

今日はいつもの実験と違い不意打ちが多いから、とても心臓に悪い。

「そうか、それなら私も一本頂いてみるとしよう。同じ体験をすることは心の触れ合いの一歩だと言うからな。ティナも食べるか?」

「あ、はい!」

「では店主、二本頼む」

「はいよっ!」

お会計はレイビス様が持ってくれ、私たちは出来立ての串焼きを手に近くのベンチまで移動した。

隣に並んで腰掛け、香ばしい匂いが漂う串焼きにかぶりつく。やはり癖になる美味しさだ。豊かな旨味が口の中一杯に広がる。

「……思っていた以上に美味しいな」

高位貴族であるレイビス様は日頃から豪華な食事を食べているはずだから口に合うか少々心配だったが、どうやら満足してくれたようだ。
 
「よかったです。レイビス様のお口にも合って」

「ティナは良い店を見抜く目利きだな。よくこういった屋台で食事をするのか?」

「いえ、ごく最近になってからです。教会にいた頃はなかなか外を自由に出歩く時間はなかったですから」

「出歩く時間がないほど治癒活動を?」

「そうですね。怪我や病気で苦しまれている方はたくさんいらっしゃいますから、わたしのチカラが役に立つのならと許す限り対応していました」

こんなふうに何気ない会話をレイビス様とするのは初めてではないだろうか。

隣同士に座り、一緒に同じものを食べながらだったおかげか、わたしはいつになく自然体でレイビス様と言葉を交わすことができていた。
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