追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「そういえば、君が治癒魔法を突然使えなくなったのはどんな状況だったんだ?」

「ある日なんの前触れもなく、でした。いつも通り治癒をしようと患部に手をかざしたのですが、発動しなくて……という感じです」

「今回の研究は治癒魔法を再び取り戻すことだったため、これまで使えなくなった謎にはあえて踏み込んでこなかった。だが、そちらも研究しがいがありそうだな。ちなみに、なにか変わった出来事などはなかったか?」

「変わった出来事、ですか?」

「治癒魔法が使えなくなる前に、ティナ自身や周囲の誰かがなにかいつもと違う行動をしなかったかということだ」

そう問われ、数ヶ月前の自分や周囲の人々を回想する。

 ……あの頃はいつもと同じように各地の教会を回って平民の患者さんを治癒していたわ。特に変わったこともなかったし……あ、でも、そういえば……?

ふとある一つの出来事が脳裏をよぎった。

今まで特になにも思っていなかったが、改めて思い返せばあの人のあの行動には違和感があったように思う。

「その顔は、なにか思い当たったのか?」

「……少し違和感があったというだけなので、変に疑いたくはないのですが」

「むやみに騒ぎ立てないと約束する。だから話してくれないか?」

レイビス様の声音は真に迫るもので、とてもではないが無視はできず、わたしは素直に思い出したことを伝えた。

「なるほど……参考になった。ところで食べ終わったことでもあるしそろそろ行くか?」

「あ、はい!」

わたしの話を噛み締めたレイビス様は、一瞬目を伏せ、なにかを思案しているようだった。

その後、切り替えるようにその場に立ち上がり、わたしへ手を差し出す。

食事の間離れていた手は再び繋ぎ直された。

「では、デートを続行する」

次の行き先をすでに決めているらしいレイビス様に手を引かれ、わたしも歩き始める。

デートという名の実験はまだ終わらない。
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