追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
わたしの役割は教会の象徴として、自身の持つ奇跡のチカラを使って人々を癒すこと。

衣食住に困らなくなったのと引き換えに、それから朝から晩まで、教会の求めに応じて魔法を行使して治癒を行う毎日が始まった。

今まで関わる機会もなかった雲の上の存在である貴族への治癒が多く、緊張を強いられる日々だったがわたしに拒否権はない。

教会に生活を面倒見てもらっている身として、ただただ愚直にひたむきに、求められる目の前の依頼をこなした。

どうやらわたしの魔力量はかなり多かったらしく、ほぼ無尽蔵に魔法を行使できたことも忙しさに拍車をかけた。

来る日も来る日も、周囲の期待に応えるべく治癒を続け数年。

一年前にもう一人聖女が見つかり、歴史上類を見ない聖女二人という事態に、ますます教会の権威は増し活気づく。

聖女の二人体制により、忙しさが少しは緩和されるだろうとわたしは期待したのだが、残念ながらそうはならなかった。

侯爵令嬢であるミラベル様が加わったことでわたしは庶民の治癒を主に担当するようになり、貴族と接する機会が減ったという点では確かに肩の荷が降りた部分はあった。

だけど、別の大変さが加わったので、結局のところ大きな変化はなく、変わらず来る日も来る日も治療に励む日々だった。

 ……そんな日々ももう終わりなのね。

ぎちぎちに詰め込まれていた毎日の予定が突然真っ白になり、なんだか心にぽっかり穴が開いたような気持ちがする。

追放宣言を受け、「悔しい、悲しい、憎らしい」という感情よりも、大事なものを取り上げられたような「寂しさ」の方が大きい。

 ……十年、長かったなぁ。教会から追放されて聖女から孤児に戻るわけだけど、明日から何をして生きていこう……?

わたしは教皇様から言い渡された追放を素直に受け入れ、異議がないことを示すために恭しく一礼する。

そしてなんの言葉も発することなく、呼び出された謁見の間を静かに後にした。

与えられた自室へ戻る道中、考えるのはもっぱら明日からの生活についてだった。

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