追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
眼前に地面が近づいてきて「倒れる!」と思わず目をギュッとつむる。

だが、想像した衝撃はやってこなかった。

代わりに腕を引かれたと思うと、次の瞬間には温かいぬくもりに包まれていた。

 ……えっ⁉︎

予期せぬ状態に、恐る恐る瞼を開ければ、目に飛び込んできたのは広い胸板だ。

誰のものかなんてわかりきっている。

 ……嘘! わたし、レイビス様に抱きしめられている……⁉︎

「大丈夫か? 君は意外とそそっかしいな」

耳に心地良い声が頭上から降ってきて、わたしは自分より頭一つ以上も背の高いレイビス様を見上げる。

すると、レイビス様もこちらを見下ろしていたようで、エメラルドの瞳と視線が重なった。

途端にドクンと心臓が飛び跳ねる。

これまでの実験で目を合わせることには慣れつつあるものの、腕の中に囲われた状態でとなれば話は別だ。

かつてない身体的な距離の近さに体が火照っってくる。

「す、すみません! うっかりしていたようです。助けて頂きありがとうございます……!」

バクバクバクと心臓がものすごい速さで鼓動を打っており、わたしは御礼を告げた上で「もう大丈夫です」と体を離そうとした。

だが、レイビス様の腕はびくりとも動かない。

「あの……」

「もしかしてティナは金に困っているのか?」

「えっ?」

しかもなにを思ったのかレイビス様は突拍子もない問いを唐突に投げかけてきた。

「……いえ、そんなことは――」

「だが、現に君の体はこんなに細いではないか。小さい上に細すぎて今にも壊れてしまいそうだ」

 ……ええっ、体⁉︎

わたしの言葉を遮ったレイビス様の口から放たれたのは、まさかの一言だった。

それはつまり、この今の身体的接触によりレイビス様がわたしの体を観察したと言っているに他ならない。

体がかあっと燃えるような恥ずかしさに襲われる。

「金に困ってしっかり食事をとってないのではないか?」

「あの、大丈夫ですから……!」

「いや、しかし。いくら治癒魔法を取り戻したとしてもこの細さでは危険だろう?」

「ご心配はありがたいですが、本当に大丈夫です……! 研究協力で謝礼も頂いていますし、街で別の仕事もしているので。十分食事は取れています」

「別の仕事?」
< 51 / 141 >

この作品をシェア

pagetop