追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
なんだかレイビス様がやたらとわたしを持ち上げてくれるような感じがするのは気のせいだろうか。

わたしは自分がそれほど慈悲深い人間だとは思っていない。目の前にある自分にできることをただ愚直に行なってきただけである。

だから素直にそう返答しているのに、レイビス様はまるでわたしの行動が素晴らしいと言わんばかりだ。

 ……どうかしたのかしら?

レイビス様の言葉に若干の違和感を感じていると、つとわたしから視線を外したレイビス様は小さくため息を漏らした。

「………女性を褒めるのは難しいな」

同時にぽろりと零れ落ちた台詞が耳に留まる。

それを聞いてわたしはある可能性に思い至った。

 ……もしかして……無理して褒めようとしている?

今日一日を思い返せば、それは的を得た推察に思えた。

――『ティナの髪色が映える服装だな。似合っている』

――『君は良い店を見抜く目利きだな』

――『君は慈悲深い心の持ち主なのだな』

デートの始まりからこの湖まで、レイビス様は折に触れ、わたしを褒めようとしていたのだ。

 ……きっと女性は褒めれば喜ぶって誰かから聞いたのかな。それで治癒魔法の反応を得るために実践してるんだろうなぁ。

レイビス様らしいと苦笑いが浮かぶ。

治癒魔法が再発動する兆候がないばっかりに、レイビス様に無理をさせてしまい、なんだか申し訳なくなってくる。

「あの、レイビス様。無理して褒めてくださらなくて大丈夫ですよ」

「女性は褒め言葉に喜ぶのだろう?」

「それは否定しません。ただ、無理やり褒められても嬉しくはないので。だから無理しないでください」

これ以上の褒め言葉は不要だと思いながら、わたしはレイビス様に笑顔を向ける。

わたしとしては無理をしないでほしいという善意の申し出だったのだが、なぜかレイビス様は不快そうに眉根を寄せた。

「……レイビス様?」

珍しくはっきりと気分を害した心情を顔に浮かべたレイビス様にわたしは意表を突かれる。

真意を探るようにその整った顔を見つめれば、レイビス様は不服そうに告げた。
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