追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「別に私は無理に褒めてはいない。難しいと思っただけだ。もちろん発した言葉にも嘘はない。すべて本心だ」

「…………」

「特にティナの慈愛の心には感心している。君はただできることをしただけと言うが、治癒魔法を行使するのはそれほど簡単ではないはずだ。豊富な魔力があっても大変だろう? 十年もの長きに渡って真摯に取り組むことは誰にでもできる行いではない」

「………ッ!」

レイビス様の言葉のひとつひとつに心を打たれた。胸にぐっと来るものがあって、思わず目頭が熱くなってくる。

レイビス様は肯定してくれているのだ。
わたしが教会で過ごしたあの十年を。
奇跡のチカラを使ってひたすら治癒活動に勤しんできたあの日々を。

わたしの半生をかけた頑張りを認めてもらえ、上等な毛布にすっぽり包まれたような温かさと安心感で心がいっぱいになる。

チカラがなくなればもう用無しだと追放されて傷ついた心が慰められるようだった。
 
 ……嬉しい。わたしのこれまでは無駄じゃないって認めてくれる人がいるなんて。

「……ありがとうございます。そう言って頂けて本当に心から嬉しいです……!」

あまりの喜びから心が震え、声まで震えそうになる。

おまけに言葉を発した拍子に、なんとか耐えていた涙が一粒、ほろりと頬を伝った。

人前で泣くなんて許されない。
教会でも幾度となくつらい時はあったが、聖女という立場柄、人々からのイメージを壊さないよう表に立つ時は細心の注意を払えと言い聞かせられていた。

だから慌てて手で顔を覆ったのだが、次の瞬間にはレイビス様に抱き寄せられていた。

後頭部に手を回され、ぐっと顔を胸に押しつけられる。

「レ、レイビス様……⁉︎」

「顔を見られたくないのだろう?」

「ですが、レイビス様の服が汚れてしまいます」
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