追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
だからこそ印象に残ったのだろうか。

耐えようと思ったのに思わず溢れてしまったと言わんばかりの自然な笑みには思わず目を奪われた。

薄い金色の瞳を柔らかく細めて、少女のようにくすぐったそうに笑う様子は、誰が見ても愛らしいと思うに違いない。

そしてもうひとつ印象的だったのが、ティナの体の華奢さだ。

あの小ささと細さには、本気で大丈夫かと不安に駆られた。これでよく十年もの間、聖女として治癒活動をしてこれたものだ。

魔法を行使するのは案外精神力と体力がいる。呪文を唱えれば簡単に使えるというわけではない。

治癒魔法は呪文は不要なようだし、他の魔法と同じとは一概に言えないが、とはいえその点はそう大きくは変わらないだろう。
 
誰よりも魔法を研究しており、桁外れに魔力量の多い私だからこそ、聖女としていかにティナが教会へ尽くしていたのかが理解できる。

彼女の献身は賞賛に値する。

しかもティナはチカラが使えなくなった今も、治癒魔法を使わない方法で苦しむ人々を救おうとしている。

私はその彼女の心のあり方はとても好ましいものだと感じていた。

 ……だというのに、治癒魔法が使えなくなった途端に手のひらを返すとは教会は腐っているな。

ここ数年の教会の驕りぶりは、目を覆いたくなるような酷さだ。

以前はそうでもなかったらしいが、聖女を得てからというものの、治癒魔法を武器に貴族を懐柔して次々に味方に取り込み、平民人気も得て、国内での発言力を高めていった。

今では王家へも口出しをしてくる、権力に執着した集団に成り下がっている。

 ……そんな状態であるからこそ、教会がサラバン帝国と繋がっていたり、神官に工作員が紛れこんでいたりする可能性も捨てきれないな。

ティナから聞いた話も引っかかっている。

彼女が治癒魔法を使えなくなる前に、いつもと違う行動を見せたというある人物。確証はないがかなり怪しいと私は睨んでいる。

なにしろ私と同じように、ティナもサラバン帝国にとって邪魔な人物の一人だと思われるからだ。

アルヴィンがティナのチカラを欲するように、戦乱となれば治癒魔法の恩恵は計り知れない。

ということはつまり、逆に敵国にとっては脅威であるということを意味する。排除したいと考えても不思議ではないだろう。
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