追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
 ……だが、治癒魔法のチカラだけを奪うなど可能なのか?

そこがわからない。

いずれにしてもティナの話に出てきた疑わしい人物を敵国に通じている可能性が高いと仮定して、慎重に調査をすべきだ。

そう結論づけたちょうどその時、応接間の扉がノックされる音が辺りに響いた。

どうやら待ち人が来たようである。

「待たせたな。まあ、約束もなく突然来たお前が悪いのだが」

「そうですよ、兄上。前もって知らせてくだされば良かったのに」

使用人からは父と弟は別々の予定が入っていると聞いていたが、廊下で偶然出くわしたのか、二人は一緒に中へ入ってきた。

四十代にはとても見えない鍛えられた肉体と鋼の精神を持つ美丈夫と、その父をそっくりそのまま若返らせたかのような弟である。

血縁であるにもかかわらず私が父や弟と似ていないのは、私が母親似だからだ。

二歳年下の弟は、その恵まれた体躯を活かして、フィアストン領で騎士団長を務めており、領内の武力の要として父を補佐している。

本来は跡継ぎである私が担う役目なのだろうが、なにぶん私の興味は魔法に向いている。また、才もあったことから領地を離れての宮廷勤めを選択したという経緯があった。

「お前が領地に戻ってくるとは珍しいな。相変わらず王都で魔法研究に明け暮れていると方々から聞いているぞ。それで今日はどうしたのだ?」

二大公爵家の当主として、国境領で敵国からの守りを担う父は冷静沈着な人物だ。

向かい側のソファーに腰を下ろすと、人払いをした上で、さっそく真意を問うような眼差しを私に向けてきた。

私は盗聴防止魔法を発動しつつ、率直に告げる。

「情報交換をしたいと思いまして」

「情報交換だと?」

「ええ。父上も陛下から聞かれているのでしょう? サラバン帝国の動きがきな臭いと」

そう口にした瞬間、父は眉をピクリと動かした。弟も緊張感を身に纏い、部屋の空気が明らかに変わる。

「……やはりその件か。王都でも噂が広がっているのか?」

「いえ、多くの貴族はまだ何も知らないでしょうね。王都は平和そのものです。ただ、王家や宮廷内の一部の者は警戒を強めています」
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