追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
◇◇◇

――トントントン

謁見の前から自室に戻ったわたしは、追放宣言を受けて荷物をまとめていた。

すると、ふいに扉をノックする音が鳴り響き顔を上げる。

返事をしようと口を開きかけたものの、それを待たずして扉が勝手に開け放たれた。

顔を覗かせたのはミラベル様だ。

聖女を象徴する白い衣を身に付け、豊かな金髪を夜会にでも行くかのように華やかに巻き、念入りに化粧を施している。指輪やネックレスなどの装飾品で飾り立てることも忘れていない。

いつも傍に侍らせているメイドを伴って断りもなく中に入ってきた。

つかつかと私の方へ歩み寄ってくると、ミラベルはあからさまに見下す態度で、真っ赤な唇に弧を描いた。

「あ〜ら、あなたまだ白の衣を身に纏っているの? もうただの庶民なんだから早く脱ぎなさいよ」

「はい。片付けが済んだらすぐ脱ぎます」

「なぁに、その口の利き方は。あたくしを誰だと思っているの? 尊い聖女であり、ネイビア侯爵令嬢よ?」

気に障ったのか、ミラベル様は蔑むような目をわたしに向け、厳しく注意してきた。

聖女であった時は同じ地位だったため、たとえミラベル様が侯爵令嬢でも一応同格として見なされていた。

だが、聖女という前提がなくなった今は、平民と高位貴族では明確な身分差がある。

「………申し訳ありません」

「ふん、それでいいのよ。分かればいいわ。そもそも平民に治癒魔法を使えること自体が何かの間違いだったのよ。こうなったのは至極当然だわ。平民に尊い聖女の役目を果たせるはずがないものね」

「…………」

「あたくしこそが正真正銘の本物の聖女よ。本来あるべき正しい状態になっただけのこと。偽物聖女は目障りだからとっとと消え失せてちょうだい。高位貴族のあたくしとあなたではもう二度と会うこともないでしょうけれど、せいぜい野垂れ死なないようにお元気でね?」

ミラベル様は得意げに胸を張り、言いたいことだけを一方的に言い放つと、満足したのかメイドを伴いまたサッサと部屋を出て行く。

その後ろ姿を見送りながらわたしは俄かに心配になった。

ミラベル様はこれから一人で大丈夫なのだろうか、と。

なにしろミラベル様が担当の治癒をこれまで相当数わたしが肩代わりしてきたからだ。
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