追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
どうやら今日という日に領主邸に立ち寄ったのは大きな選択ミスだったらしい。

『夜会』という面倒極まりない催しに巻き込まれようとしている自分に私は気づいたのだった。

◇◇◇

「よう、レイビス! お前がこの夜会に出席しているとは驚いたな」

「……リキャルドこそ、なんでここに?」

なかば強制的に出席させられた当家主催の夜会で、私は早い段階から壁にもたれかかり空気に徹していた。

そこへ声を掛けてきたのが友人のリキャルドだった。

王都で宮廷騎士団長を務める彼がなぜフィアストン領にいるのか。意外な場で顔を合わせ、疑問が頭をもたげる。

「俺はお前の親父さんと有事に際した事前の打合せだ。数日前から滞在してる。フィアストン領の騎士団との連携は重要だからな。で、ついでに夜会に出席していかないかと誘われたんだ」

なるほど、リキャルドもサラバン帝国との戦いに備えて水面下で動いているようだ。

「いや〜それにしても今日の夜会は可愛い子が多いなぁ! 眼福、眼福!」

リキャルドは私の横に陣取ると、会場全体を物色するように見回し始めた。その顔には嬉々とした表情が浮かんでいる。相変わらずの女好きだ。

「ねぇ、見て! あちらにレイビス様とリキャルド様がいらっしゃるわよ!」

「うそでしょう⁉︎ 二大公爵家のお二方がいらっしゃるなんて! 普段は王都にいらっしゃるのよね⁉︎」

「お二方とも素敵……!」

「レイビス様はめったに夜会でお目にかかれない方よ。せっかくの貴重な機会、ぜひお近づきになりたいわ!」

「それなら貴女、いってきなさいよ。ほら、今なら声を掛けるチャンスよ!」

「え、あ、でも……」

ふいに私の耳には令嬢たちのかしましい声が飛び込んできた。

私とリキャルドを目にして噂しているようだが、あの声量で相手に聞こえていないとでも思っているのだろうか。まったく不思議だ。

すると同じく声を拾っていたらしいリキャルドが、耐えかねたように「ぶはっ」と突如噴き出した。

何事かと視線を向ければ、若干涙目になって腹を抱えている。

「あはは。あの子の顔見たか? レイビスに近づきたいのに怖気付いちゃってさ、可哀想に」

「……それの何がそんなに可笑しいんだ?」

「たぶん過去にレイビスから冷たくあしらわれた令嬢達の噂を知ってるんだろうぜ。で、それを思い出して、自分も同じ目に遭うかもと想像して二の足踏んじゃったんだろうなぁ〜」
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