追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
笑いながらリキャルドは社交界で知れ渡っているという私の噂を教えてくれた。

噂といっても、過去に夜会へ出席した時に実際に起きた一幕が広まっているだけなのだが。

「あの時のレイビスは確かに手厳しかったからな。俺、思わず令嬢に同情しちゃったし」

そう言われて当時を回想してみるが、リキャルドが指摘するほどのことは口にしていない。

秋波を送りながら声を掛けてきた相手に「君と話せば魔法の研究よりも有意義な時間が過ごせるのか?」と問い返しただけだ。

さらに強引に粘ってくる相手には、「具体的に有益性を示して欲しい」とあしらった。

どうやらそれらの対応が令嬢の心を折ってしまったらしい。

 ……私としては、結果的に余計な羽虫が寄ってこなくなり、過ごしやすくなって助かっているが。

「レイビス、女には優しくが基本だせ? いくらお前の顔や家柄が良くても、研究馬鹿すぎて女心のわからない痛いヤツになるんじゃねーかって友人として俺は心配だわ。いざ本気で想う女が現れた時に困るぞ?」

いつもならうんざりするに違いないリキャルドの台詞だが、この日は妙に心に沁み込んできた。

というのも、ティナを泣かせてしまった自分を思い出したからだ。

「……ああ、わかった。気をつける」

「お? なんか今日は珍しく素直に聞き入れるじゃねぇか」

「まあな。女心がわからないのは事実だから言い返せない。……ところで、参考までに聞くが、リキャルドは良い仲になった女性とはどんなことをするんだ?」

「は? なんだその質問は⁉︎」

「見つめ合う、手や頬に触れる、デートをする……他には?」

「そりゃ次は口づけだろ。いきなり唇を奪うのもいいが、髪や額、瞼、頬……と焦らすのも楽しいんだよなぁ。って、おい! なんだよ、この唐突な話は⁉︎」

 ……なるほど。次の段階はこれだな。

リキャルドが指摘した通り、私には女性のことはさっぱりわからない。

たとえわかろうとしても、それほどすぐに理解できるものでもない気がする。あまりにどうでも良すぎて今までが酷かっただけに。

であれば、女性の扱いが上手い友人を参考にするのが手っ取り早いだろう。

なにしろ敵国の影は確実に迫りきている。治癒魔法を取り戻す研究も悠長には進めていられない。一刻も早い成果が望まれるのだ。

リキャルドが隣で説明を求めてくる中、私は次の実験計画を思い描き始めたのだった。
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