追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「……顔色が悪いが大丈夫か?」

「はい、その、少し昔のことを思い出してしまいまして。でも大丈夫です。どうぞお話を続けてください」

「でも震えているではないか……」

彫刻のように整った顔が近寄ってきて、まじまじと顔色を観察される。

そしてレイビス様は何を思ったのか、次の瞬間にはわたしの背中に腕を回し、自分の方へ引き寄せた。
 
「レイビス様……⁉︎」

デートの時に続き、またしてもレイビス様の温もりに包まれ、胸が甘く疼く。

つい今しがたまで恐怖に心を支配されかけていたというのに、わたしは本当に単純だ。

「なにか嫌な思い出でもあるのか……?」

すぐ近くで耳に心地良い低い声がする。

気のせいかもしれないが、その声音にはどこかわたしを気遣うような響きが滲んでいるように感じられた。

隠す理由もなかったため、わたしはレイビス様に幼い頃の出来事をありのままに話した。

「……そんなことがあったのか。それで教会に保護される運びになったのだな?」

「はい、そうです。両親からはチカラを人に隠しなさいと言われていたのですが、戦争孤児になって食べるに困っていたのでつい治癒魔法を使ってしまって……」

「君のご両親はなぜチカラを隠せと?」

「治癒魔法を使えることが露呈すれば、教会や王家から狙われて家族で過ごせなくなるだろうから、と言っていました」

「……君のご両親は平民なんだろう? 素朴な疑問なのだが、平民でも治癒魔法の存在は一般的に知られていたのか?」

「えっ? そう言われればそうですね。今は聖女のチカラとして知れ渡っていますが、当時は……一般的とは言えない気がします」

聖女は大陸全体でもごく僅かにしか存在しない上に、ウィットモア王国では十年前の時点では永らく見つかっていなかった。

そんな珍しい希少なチカラについて、確かにただの平民が知っているとは思えない。

それに平民は魔力を持たない存在だ。魔法とは無縁であるため、一般的な魔法すら知らないはずである。

 ……なんで父さんと母さんは知っていたの?

今まで疑問すら抱いたことなどなかったが、指摘されて初めて不思議に思った。
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