追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
抱きしめられるだけで心臓が激しく脈打つ今、正直に言えばこれ以上はもう少し待ってほしい気持ちでいっぱいだ。

一方で差し迫った事態であることは理解できた。

わたしが実験を頑張ることで治癒魔法を取り戻せれば、救われる命もきっと少なくないはずだ。両親のように命を落とす人は一人でも減らしたい。

となれば、わたしの答えは決まっている。

「わかりました。実験の速度を速めていきましょう。治癒魔法を取り戻し、(きた)る時に一人でも多くの命を救うために」

決意を込めて、わたしはまっすぐとエメラルドに輝く双眼を見つめ返した。

「同意してくれて助かる」

いつもの無表情なレイビス様の端正な顔が、ふっと柔らかくなった気がした。

あまりの破壊力に言葉を失い見惚れてしまう。

わたしがレイビス様の顔に視線を止めたまま硬まっていると、ふと額にふにゃりとした感触があたった。

一瞬、なにが起こったのか脳が処理をしきれていなかったが、次第に状況への理解が追いつく。

同時にじわじわと顔に熱が集まってくるのを感じた。

 ……い、今の感触って……?

そう、レイビス様の唇だった。

まるで職人が精巧に作ったかなようなあの形の良い唇がわたしの額に触れたのだ。

「さっそく実験の段階を進めた。今回は口づけだ」

先程わたしの額に口づけた唇でそう告げると、レイビス様は再び顔を寄せてくる。

今度は瞼の上にそっと口づけを落とした。

ドキドキドキとわたしの心臓は踊り狂う。
覚悟はしていたが、だからといってこの胸のときめきを止めることはできなさそうだ。

「どうだ? 反応はないか?」

もう片方の瞼にも唇を寄せたレイビス様は、わたしの反応を窺うよう顔を覗き込む。

咄嗟に口を開けなかったわたしはふるふると首を振って返事をした。

 ……これは実験。これは実験。これは実験。

自分を落ち着かせるように心の中で何度も何度も同じ言葉を繰り返す。まるで暗示をかける呪文かのようだが、残念ながら効果はない。

続いてレイビス様は唇を頬へと寄せた。
 
いまだかつて感じたことのない、やわらかな感触に胸が飛び跳ねる。

額、瞼、頬、と口づけされる場所が徐々に下へ降りてきている事実に気づき、思わずわたしらギュッと目を閉じた。

次の場所が予想できたからだ。
< 65 / 141 >

この作品をシェア

pagetop