追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
だが、その場所へはいつまで経ってもあの柔らかさは落ちてはこなかった。

代わりにそれ以外の場所へ再び口づけが降ってくる。

 ……あれ? 唇にはしないの……?

そこに触れらるのは怖いような、それでいて期待するような複雑な気持ちがわたしの心の中を駆け巡る。

なんだか焦らされている気がしてくるから不思議だ。

恐る恐る目を開ければ、わたしを観察していたのであろうエメラルドの瞳と視線が重なった。

「残念ながら治癒魔法の反応はなさそうだな?」

「は、はい……」

「では今日はここまでにしよう」

わたしに改めて反応の有無を確認すると、レイビス様は今日の実験の終了を告げた。

覚悟をしていただけに「あれ?」っと拍子抜けしてしまったわたしは、思わず自ら問いかけてしまう。

「あ、あの、レイビス様。……その、ここにはしなくて良いのですか?」

なんとなく具体的に言葉にするのが恥ずかしくて、わたしはそっと指で自分の唇を指し示した。

その数秒後に、なんてはしたないことを尋ねているのだと激しい後悔に襲われる。これではまるでキスを強請っているようだ。

「そこへの口づけは来週にしよう。実験の速度を速めるとはいえ、ティナに負担をかけるのは本意ではないからな」

 ……わたしを気遣ってくださったの……?

胸に甘いときめきが広がっていく。

先程までのドキドキとした胸の高鳴りに加えて、温かい気持ちで胸がいっぱいになった。

 ……ああ、やっぱり無理だ。わたし、レイビス様のことが好き……。

必死に堰き止めていた想いが溢れ出す。

実験で恋人行為をしていたから勘違いしたのではない。そう思おうとしたけれど、無理だった。

半生をかけて取り組んだ聖女としての活動を認めてくれるレイビス様。

無表情で一見気難しい感じがするけど本当は優しくてわたしを気遣ってくれるレイビス様。

魔法の研究のためなら手段を問わずとことん追求するレイビス様。

そんな彼がたまらなく愛おしい。

恋人行為にときめいているのではなく、わたしはレイビス・フィアストンという一人の男性に心を奪われ、恋心を抱いているのだ。

唇へ口づけをする実験を来週に控えた今、わたしは自分の気持ちをはっきりと自覚したのであった。
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