追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「ワシもこの年じゃからな、これまでいろいろな者達を見てきた。その中には、お前さんのように身分違いの恋に悩む者達もおった」

「そ、その方々はどうされたのですか……?」

「ある者は想いを相手に伝え、結ばれて幸せになった。ある者は恋人になったものの、やはり身分差には勝てず結局別離を選んだ。ある者は想いを消そうと他の男と恋人になった。ある者は想いをひた隠しにしてひたすら相手の幸せを願った。……つまり十人十色ということじゃ」

「十人十色……」

「明確な答えはない。お前さんがどうしたいか次第じゃな」

「わたしがどうしたいか、ですか」

「お前さんはその相手と恋人になりたいと思うておるのか? 好いておる想いを伝えたいのか? 気持ちを消したいのか? ただひっそり想っているだけでよいのか?」

次々に問いかけられて、わたしはしばし自問自答してみる。

その結果、答えはひとつだった。

 ……わたしは初めて抱いたこの恋心は大切にしたい。だから無理に想いを消したりしたくないわ。恋人になるなんて恐れ多いことは初めから望んでいないもの。レイビス様を想っていられればきっと満足だわ。

自分で答えを導き出せたおかげで、先程まで絶え間なく溢れていたため息が鳴りを顰める。

雲が晴れたようにずいぶんスッキリとした気持ちになっていた。

「どうやらお前さんなりの答えが出たようじゃな」

「はい、ありがとうございました……!」

「やっぱりお前さんは笑っているのがいいのう。患者も安心できるじゃろうて」

にこにこと人好きする笑みを浮かべたラモン先生にわたしも笑顔を返す。

ちょうどその時、タイミングを見計らったかのように処置室に患者さんがやってきた。

そしてその後も、先程の落ち着きが嘘だったかのように立て続けに怪我に呻く人々が駆け込んできた。

ラモン先生とわたしはお喋りを切り上げて、慌ただしく処置に向かったのだった。


◇◇◇

そして自分の気持ちに折り合いをつけてから数日後。

いよいよ実験の日が再びやってきた。

レイビス様と顔を合わせるのは、恋心を自覚してから初めてだ。ドキドキと胸が高鳴ってしまうのは仕方ないことだろう。

約束の時間になると、寸分の遅れなくレイビス様は邸宅を訪ねてきた。

玄関で出迎える際、レイビス様の姿を一目見た瞬間、わたしは言い表しようのない幸せな喜びが全身に巡っていくのを感じた。

姿を視界に入れただけなのにこの状態だ。これが恋の威力というものなのだろうか。
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