追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
 ……今日の実験は唇への口づけだというのに、このままではわたしの心臓は持たないんじゃないかな。

この先を思うとなんとも不安になってくる。

気持ちを伝えないままこの想いを大切にすると決めた今、わたしは実験は実験と割り切って挑もうと思っている。

想う相手から恋人のように扱われても、その幸せな気持ちは享受しつつ、勘違いしないよう自分を諌めるつもりだ。

この実験もいつかは終わりが来る。
つまり、レイビス様とわたしが顔を合わせる機会もなくなる。

その時に、実験として行った数々の恋人行為を思い出として胸に留めたいと思っている。

普通なら一方的に想う相手と見つめ合ったり、触れ合ったり、デートしたり、口づけをしたりなどできない。

だけど、わたしは実験とはいえそれらを好きな人と経験することができたのだ。これは望んでもできない幸運な出来事だと思う。

だからこそこの思い出を記憶に刻み込み、この後の人生を歩んでいこうと考えている。

きっと辛いことがあっても、レイビス様との日々を思い出せば胸に幸せが灯るから。

「では、今日の実験を始めよう」

居間で並んでソファーに腰掛けると、いつも通り淡々とレイビス様はわたしに告げた。

今日することはもうわかってる。

わたしは心の準備を済ませて、こくりと頷いた。

その途端、体を軽く引き寄せられ、頬に手が伸びてくる。

包み込むように手のひらを頬にあてがったかと思うと、顔をレイビス様の方へ向けられ、視線が絡み合った。

「今さら聞くのもなんだが……いいんだな?」

「はい」

最終確認かのように意思を尋ねられ、わたしは躊躇いなく返答を返した。

すると、頬にあった手がするりと肌を滑り、長く細い指で顎を掴まれる。

そのままくいっと顎を軽く持ち上げられた。

その動きに応じてわたしはそっと目を閉じる。

「んっ……」

次の瞬間、驚くほど柔らかな感触を唇に感じた。

それは優しくて穏やかで、このままずっと触れていたいと思うような甘い重なりだった。

温かな熱が体中に広がっていき、なんだかふわふわとした心地がして気持ち良い。
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