追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
そんな幸せな甘さに身を委ねていたら、ふいに手に異変が現れた。

 ……えっ、この感覚って……治癒魔法⁉︎

魔法を発動する時の前触れのようなものを確かに手に感じたのだ。

「い、今、は、反応が……!」

レイビス様の顔が離れると、わたしは声を浮つかせながら興奮ぎみに今の事態を報告した。

「以前のように治癒魔法を発動できるか?」

「やってみます……!」

試しに自分の腕に手をかざして魔法を発動させてみようとする。

だが、残念ながらうんともすんとも反応せず、虹色に光は見られなかった。

「でも、今確かに感じたのです。治癒魔法が発動する前の感覚を」

「ということは、やはり唇への口づけに効果があったということか?」

実験開始以来初めての反応に、レイビス様も難しい顔をして考えを巡らせている。

もう一度確認してみようという話になり、再びレイビス様に唇を塞がれた。

二度目は、唇と唇が隙間なくぴったりと重なり合うような、しっとりとした口づけだった。

唇から熱が伝わってきて、蕩けてしまいそうだ。

うっとりとした心地になっていると、やはりわたしは再度手に治癒魔法発動の兆しを感じ取った。

「反応があります……!」

「やはり口づけが引き金か?」

反応があった二回はいずれもキスをしている時に起こった。だからそう考えるのが妥当だった。

だが、レイビス様はあらゆる可能性を検証したいと言って、今度は頬や額に口づけを落としてきた。

前回の実験をもう一度試みた形だ。

この前なにも起きなかったのだから、反応などあるはずはないだろうと思っていた。

レイビス様もあくまで念のためと実行したはずだった。

だが、わたし達の予想を裏切って、なんとわたしの手には再び反応が現れたのだ。
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