追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「なによ、侯爵令嬢であり、聖女である尊い身のあたくしに逆らうつもり? ただの平民が?」

案の定、ミラベル様は不快そうに顔を顰めた。鬼ような目をして睨んでくる。

この後は散々罵られるのだろうと身構えたその時、意図的か否か不明だが、この状況にさらに油を注ぐ者がいた。

「……ミラベル様、私もつい先日他家の侍女から聞いたばかりなのですが……元聖女様はフィアストン公爵子息様と最近懇意にされているそうですよ。それで少々慢心されているのでは? でないと、ミラベル様のような高貴な方に意見しようなど恐れ多いですもの」

ここまでずっと沈黙を貫いていた侍女が、突然ミラベル様にそっと耳打ちする。

その内容を聞いて、ミラベル様は顔に憤激の色を漲らせる。

「なんですって⁉︎ あのレイビス様と懇意にしてるですって⁉︎ あなた、それ本当なの⁉︎」

「…………」

顔を真っ赤にして強い口調で問い詰めてくるミラベル様にわたしはなんと返答すべきか頭を悩ませた。

 ……治癒魔法の研究をしていることは話さない方がいいだろうけど、なんて言えば角が立たないかな……?

懇意にしているという言葉からきっと恋仲だと誤解を招いているのは察した。

だけど、研究の話を避けて誤解を解くのは非常に難しい。

「黙ってないでなんとか言いなさいよッ!」
 
とうとう人目も憚らずに声を荒げたミラベル様を見て、これ以上の沈黙は神経を逆撫でさせるだけだろうと判断して口を開いた。

「……その、面識があるのは事実ですが、懇意にしているわけではありません」

「どういうことよ! そもそもあのレイビス様となんで平民のあなたなんかが面識があるのよ! レイビス様はめったに夜会にも出席されないからあたくしでもお目通りが叶わないのにッ!」

「……この処置室の関係でお会いしたのです」

なにか良い手はないかと必死に頭を捻ったところ、咄嗟に出てきたのがこの言葉だった。

口に出してから自分でも名案だと気づく。

「こんな汚いところとレイビス様になんの関係があるっていうの⁉︎」

「ご存じないかと思いますが、ここは領主であるフィアストン公爵様から資金援助を受けております。その件で領主様の代理であった公爵子息様とお会いしたのです」
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