追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
完全に作り話だが、要所要所は事実のため、もっともらしく聞こえるはずだ。

わたしはなんとか変な誤解を解けそうだと小さく吐息を零す。

「ただの庶民のくせに、レイビス様にお目通りしたなんて! 本当に腹が立つわ! あれほど素敵な方だもの、あなたも見惚れてしまったのでしょう? まさか好意なんて抱いていないわよね?」

「………恐れ多いことです。ありえません」

図星を指されて一瞬ドキリとした。

まるで心を見透かされたようで居心地が悪い。

「あの方は二大公爵家の方で、天才と名高い魔法師様。エリート中のエリート、あなたとは住む世界の違うお方であることをよく胸に刻んでおきなさい! お目通りしたからって図に乗るんじゃないわ!」

ミラベル様はただ立場をわからせてやろうと発した言葉だったのだろうが、それは思いのほかわたしの胸に刺さった。

第三者から住む世界が違うと断言され、改めて痛感させられたのだ。

その後ミラベル様は、こんこんとわたしに文句を述べると、満足したのか侍女を引き連れて帰っていった。

 一人後に残ったニコライ司教によると、教皇様を始めとした教会上層部からの指示で、今回ミラベル様は遠路はるばるフィアストン領へ治癒活動に来ることになったらしい。

そのためミラベル様はしばらくの間フィアストン領の教会に滞在するそうだ。

そのお世話役として、この地の教会を管轄しているニコライ司教が同行したという。

わたしとラモン先生に改めて謝罪をしてくれたニコライ司教は、これまでも色々あって気苦労が絶えないのか顔には疲労が滲んでいた。

「……ティナ様がお元気そうでなによりです。それにしても驚きました。まさかラモン大司教とご一緒とは」

追放されたわたしのその後を心配してくれていたのであろうニコライ司教は、わたしへ慈愛の眼差しを向けると、次にその視線をラモン先生に移す。

そして意外な一言を口にした。

 ……えっ? 大司教……? どういうこと?

「久しいのう、ニコライよ。だが、わしはもうその地位にはない。ただの元医療神官じゃ」

わたしが疑問符を浮かべていると、ラモン先生がやれやれというように肩をすくめてニコライ司教に答えた。

どうやら二人は知り合いのようだ。
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