追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
そして言葉から察するに、ラモン先生は教会にいた頃にかなりの高位神官だったのだろう。

大司教といえば、教皇様に次ぐ、大きな権限を有する高い地位だ。

「おぬしも教会で苦労しとるようじゃのう。あの聖女と名乗る小娘を見れば今の教会の程度も知れるというものじゃ」

「………返す言葉もございません」

「ワシはもう教会の人間ではないゆえ、なにも言う権利はないが、教会には神の教えのもと皆に平等であってほしいと一市民として願うばかりじゃ。昔から実直であったおぬしには期待しておる」

わたしからすれば非常に大人に見えるニコライ司教も、ラモン先生を前にすれば、まるで子供のようだ。

朗らかな口調でニコライ司教を諭すラモン先生はまさに聖職者の鏡というべき様相だった。

「いやはや、嵐のような出来事じゃったのう」

ニコライ司教が帰っていった後、処置室に二人きりとなると、ラモン先生は呆れ顔で息を吐き出した。

嵐とは言い得て妙だ。
突然やってきて、辺りを掻き回して去っていったのだから。

「それにしても……お前さんは聖女だったのじゃな」

「……以前の話です。今はチカラを使えません」

「聖女が教会から追放されたとは小耳に挟んでおったが、まさかお前さんとは。……だが、事実を知って納得でもあるのう。どうりで怪我人や病人を前にしても動じんわけじゃ」

「あと……ラモン先生には謝らなければなりません。お気づきかと思いますが、先程咄嗟に処置室を言い訳にした嘘をつきました。申し訳ありません」

「ふむ。フィアストン公爵子息と会ったというアレじゃな。察するにお前さんの想い人というのは……」

そこまで口にしたラモン先生だったが、次の言葉を呑み込んだ。そしてゆるゆると首を振る。

「いや、なにも聞くまい。……それよりもお前さんはあの小娘と確執がありそうじゃな。一方的に目の敵にされているという方が適切かの? ああいう手合は厄介じゃから、あの小娘がこの領地にいる間はなるべく目立つのを避けるべきじゃろな」

「はい……。そのつもりです」

それはわたしも感じていたことだ。

ミラベル様がフィアストン領に滞在する間は、レイビス様との実験も控えた方がいいだろう。

 ……わたしの考えが正しければ、いくら実験を重ねてもきっと今以上の反応は得れないものね。

その日、邸宅に帰ると、わたしはレイビス様へ一通の手紙を送った。

しばらくの間、実験を延期したい旨を綴って。
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