追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした

14. 聖女の思惑(Sideミラベル)

 ……ああ、本当にイライラするわ!

大衆浴場の処置室から教会へ戻ったミラベルは、豊かな金髪を振り乱しながら、一際豪華なソファーに身を沈めた。

ここは教会の中でも上層部の者しか使用できない貴賓室だ。

今回聖女がこの地に滞在するにあたり、ミラベルのために用意された部屋である。

贅の尽くされた調度品はどれもセンスが良く、侯爵令嬢であるミラベルをも満足させる仕様に整えられている。

そんな特別待遇に先刻までは気を良くしていたというのに、今やミラベルの顔は般若の如く歪んでいた。

「まぁまぁ、ミラベル様。こちらでもお飲みになって落ち着かれてください」
 
怒れるミラベルに果敢に声を掛けたのは、彼女の侍女・オルガだ。

オルガは慣れた仕草で紅茶を淹れ、ミラベルの前にティーカップを差し出した。

漂ってくる芳醇な香りに少し心を落ち着けたミラベルは、オルガの言葉に従い、紅茶を口をつける。

「まさか元聖女のティナ様があのようなところで病人や怪我人の手当てをされているとは思いませんでしたね。しかも“聖女”などと崇められているとは。本物の聖女はミラベル様しかおられないというのに庶民の目は節穴で困ったものですね」

オルガの指摘する通りだとミラベルは思う。

今のあの女には奇跡のチカラはない。
聖女として崇められるべきなのは自分なのだ。

 ……それなのに、治癒魔法を使えず、ただ普通に手当てするだけで聖女扱いされるなんて。

やはりあの女は好きになれない。

いや、はっきり言って嫌いだ。
ずっと気に入らなかった。

侯爵令嬢であるミラベルよりも圧倒的に身分が低いくせに、魔力量が豊富で、同じ聖女であるにもかかわらず明らかに自分よりも人々に崇められていた。

しかも容姿も整っているというのだから憎らしい。

 ……身分が低い者はもっと上の者に尽くし、従うべきでしょう? 聖女というだけで同格扱いされるのも納得いかなかったわ。

ミラベルがそう強く思うのは、実は彼女の生い立ちゆえである。

国内でも有数の名家であるネイビア侯爵家の四人目の子供としてミラベルは生を受けた。

ミラベルの上には、兄一人と姉二人がいる。

だが、その兄姉とミラベルでは母が違う。つまりミラベルだけが腹違いなのだ。
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