追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「もし本当にあの女がレイビス様と懇意にしているならあたくしも腹が立つわ。でも女性には手厳しいと知られるあのレイビス様よ? さすがにその噂は事実ではないんじゃないかしら?」

「侍女仲間によると、かなり角度の高い噂のようですよ。なにしろフィアストン公爵子息様は魔法の研究には目がない方だそうですから」

「ええ、それは有名よね。それがどう関係するっていうの?」

「聞くところによると、どうやらフィアストン公爵子息様は治癒魔法にご興味をお持ちだとか。元聖女のティナ様にその関係で近づかれたのではありませんか?」

「なっ……!」

それはありうるかもしれないとミラベルは直感的に思った。レイビスの魔法研究熱の高さもまた社交界では周知の事実だったからだ。

 ……それならなぜあたくしに声を掛けてくださらないの? あたくしこそが本物の、そして唯一の聖女なのに!

ミラベルの心の内で不満が爆発する。

みるみるうちに顔を真っ赤にさせ、怒りで頬をぴくぴく動かした。

そんなミラベルを慣れたように宥めるのはもちろんオルガだ。

オルガは(あるじ)の凄まじい怒りにも動じることなく、落ち着いた様子で声をかける。

「でもこれはチャンスではありませんか?」

「チャンス? どういうこと?」

「フィアストン公爵子息様が治癒魔法にご興味があるなら、ミラベル様がお近づきになる絶好の機会だと思うのです。しかもミラベル様は今フィアストン領にいらっしゃるじゃないですか」

思わぬ侍女の一言にミラベルは一瞬呆気に取られパチパチと瞬きをした。

だが、冷静にその言葉を吟味すれば、その助言が的を得たものだと気づく。

「オルガ……! 素晴らしい考えだわ! ええ、確かにその通りね!」

 ……そうよ、治癒魔法が目的ならあたくしもお近づきになれるばすよ。きっとあの女に先にお会いになったのはあたくしが忙しいからだわ。追放された元聖女なら暇でしょうからね。

社交界でレイビスを狙う令嬢達は近寄れないのに、治癒魔法を使えるあたくしならお近づきなれるかもと思うと優越感が湧いてくる。

姉たちの夫よりも格上のレイビス。その妻になれたならば、どれほどスカッとするだろうと想像して心の中でニンマリする。
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