追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした

15. 二通の手紙(Sideレイビス)

ついに待望の反応が実験で得られた日から数日後。私はフィアストン領の領主邸にある客室で机に向かっていた。

机の上には何枚もの紙が散らばっている。これらすべては私が書き留めた考察だった。

この数日で何度も何度も考え、その度に紙に書き綴り、この有様である。

 ……なぜだ? なぜあの日は反応があったんだ?

唇への口づけによって反応したという結果であれば、事はもっと単純であった。

だが、そうではなかった。
 
あの日、過去の実験ではなんの反応もなかった行為に対しても治癒魔法が発動する兆しがあったのだ。

これにより、一気に考察が難解になった。

 ……一体あの日と他の日ではなにが違う? それに兆しは見られるものの、発動しないのはなぜだ? なにが足りない?

謎は深まるばかりで、あれから私はずっと考え続けていた。

「あ〜また机の上がぐちゃぐちゃじゃないですか。せっかく僕が片付けたのに」

そこへちょうど補佐官のサウロが部屋に入ってきた。

机の上の状態を視界に入れるなり、やれやれと苦笑いを浮かべる。

ここはフィアストン領だというのに、なぜ宮廷魔法師団の団長補佐官であるサウロが今この場にいるのかといえば、私も公爵子息としてではなく、魔法師団長としてここに滞在しているからだ。

実は王家から宮廷魔法師団に、対サラバン帝国の最前線となるフィアストン領への待機指令が出た。

私を含む魔法師団の一部の者は、瞬間移動魔法を使える。その魔法を駆使すれば、有事の際に王都から騎士団を加勢に連れて来ることが可能だ。

そういったもしもの備えとして、魔法による小回りが効く魔法師団の一部がここフィアストン領に詰めている。

団長である私がここにいるのだがら、当然補佐官のサウロも帯同しているというわけだ。

そして仕事であるから、領主邸にある私室ではなく、客室を執務室として使用していた。

「今日も元聖女のティナさんとの実験結果に対する考察ですか? なかなか難航してますねぇ。大丈夫です? あまり根を詰めすぎないで時折休憩してくださいよ?」

「ああ、わかってる。それにしてもやはり治癒魔法は謎が多い。あともう少しで再びチカラを取り戻せそうなんだが……」

サウロからの気遣いの言葉に、わたしは嘆くように吐息を零す。

頭を酷使しすぎてしまったため、万年筆を持つ手を止め、休憩を兼ねてサウロと会話を始めた。
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