追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
ちなみに、以前は実験についてサウロには秘匿していたが、今は情報を共有している。

反応が得られたのをキッカケにアルヴィンやリキャルドへ進捗報告すると共に、ごく一部の者には伝えたのだ。

治癒魔法の有無はサラバン帝国との戦いに影響を及ぼすため、指揮官となる者達は状況を知っておいた方が良いだろうという判断だった。

ただし、具体的な実験内容は知らせていない。

共有したのは、治癒魔法を取り戻す研究を進めており、その兆しが見られたという事実のみだ。

「あ〜僕もティナさんに一度お会いしてみたいなぁ。見た目も聖女然とした純真な雰囲気の美人だっていうじゃないですか? 本当です?」

「まあそうだな」

「話を聞く限り、僕のタイプど真ん中ですよ。清純で控えめな感じの子、好きなんです」

「……………」

人当たりの良い笑顔で軽口をたたくサウロはいつも通りだ。

なのに、この日はなぜかティナについて語るサウロに対して妙な苛立ちを覚えた。

正体不明の不可解な黒い感情が胸の中を渦巻いている感じがする。

「……それで、その手に持ってるのはなんだ? 手紙か?」

咄嗟に話題を打ち切り、私は話の矛先を他へ向けた。

サウロは「そうでした」と用件を思い出したようで、私に促されて話を切り替える。

「団長宛に二通の手紙が届いています。どちらも親展ではなかったので先に目を通させてもらいました」

二通の手紙を私へ手渡しながら、サウロは先に内容を口頭で報告し始めた。

なにかと忙しい私に代わって手紙の確認や返書に対応するのも補佐官の仕事の一つだ。

「まず一通目ですが、ティナさんからです。内容は次回の実験をしばらく延期してほしいとのご要望でした」

「延期……?」

思ってもよらない内容に、私は受け取った手紙にすぐ目を通し出す。

確かにそれはティナからで、サウロが述べた通り実験延期を求めるものだった。

やっと反応が得られたというのになぜ、という私の疑問についてもきちんと理由が綴られている。

「……ミラベル嬢がフィアストン領にいる間は目立つ行動を避けたい、か」

それは確かに納得のいく理由だった。
< 85 / 141 >

この作品をシェア

pagetop