追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
なにしろミラベル嬢は、ティナが治癒魔法を使えなくなる前に怪しい行動があったと言っていた、疑惑の人物である。

ティナが警戒心を持つのは当たり前だ。

私もミラベル嬢へは疑いを向けている。
敵国への密通者本人、もしくは片棒を担いでいる人物として。

「実は二通目の方は、そのミラベル様からなんです」

「なに? ミラベル嬢から?」

「はい。内容は団長にお会いしたいという面会希望でした。ちょうど自分もフィアストン領に滞在しているので、とのことですね」

 ……このタイミングでミラベル嬢からの面会希望だと?

今まで一度も面会希望の手紙など受け取ったことがないというのに、怪しいことこの上ない。

やはりサラバン帝国の手の者で、なんらかの思惑を持って私に近づこうとしているのだろうか。

 ……だとすると、なんだ? 暗殺か?

でも暗殺を企むにしては、堂々と面会希望を出してくるのは違和感を覚える。

暗殺でないとすれば、情報収集だろうか。

「……団長、どうされます?」

「まずティナの方は延期要望を了承したいと思う。あとで私から返書を送っておく」

「ミラベル様は……? 断られますよね? さすがに怪しいですし」

ティナとの実験の件を共有したように、ミラベル嬢への疑惑も関係者には伝えていた。明確な確証はないが各自警戒はしてほしいという注意喚起だ。

サウロもこの状況を把握しているがゆえに、(うれ)わしげな表情を私へ向けた。

「……いや、向こうの希望に応じて面会する」

「団長……!」

「これほど正々堂々と面会を申し込んでくるのだから暗殺はないだろう。おそらく敵情視察ではないかと思う。こちらがしっかり防諜していれば問題ない」

「ですが……」

「それにいい機会だ。向こうから接触してくるというのなら、こちらも探りを入れる」

こうしてミラベル嬢からの面会希望を了承する手紙は、サウロによって返書が作られ、送り届けられた。

面会日は四日後、ここ領主邸でと決定したのだった。


◇◇◇


「本日はお招きありがとうございます。レイビス様にお会いできて嬉しいですわ!」

面会当日、ミラベル嬢は聖女を象徴する真っ白な衣を身に纏い現れた。

国内唯一の聖女としての自信の表れか、その顔はやけに得意満面だ。

穢れのない純白さを台無しにするように、ミラベル嬢は指輪やネックレスなど豪奢な装飾品をつけている。一見して金がかかっているのが丸分かりで、その欲深さが透けて見えた。
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