追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「実はあたくしもぜひレイビス様にと思いまして、おすすめの甘味を持ってまいりましたの! シュトレンという名の菓子で今王都を中心に女性の間で流行っておりますのよ」

それは、洋酒に漬け込んだドライフルーツやナッツなどを生地に練り込んで焼き上げたパン菓子だった。

王都で見たことがあるので知っている。確か日持ちするため長期間楽しめるという点が人気だったはずだ。

「シュトレンというと、保存性に富んでいる点が好評のパン菓子ですね」

「ご存じですのね! 流行にもお詳しいだなんて、さすがレイビス様ですわ!」

ミラベル嬢は、ぜひこの場で紅茶と一緒に楽しみましょうとシュトレンを勧めてくる。

私はチラリとサウロに目配せし、咄嗟に口から出まかせを吐いた。

「……せっかくですが、残念ながら今は仕事の都合により甘味を食すのは控えておりまして」

「団長! せっかくミラベル様から頂いたのですから、甘味制限を終えた時に食べたらいいじゃないですか! 幸いシュトレンは日持ちするんですし!」

「なるほど、確かにな。……ミラベル嬢、そのようにさせて頂いてよろしいですか? 聖女からの差し入れと知れば団員も喜ぶでしょうし、できれば一緒に食べさせてやりたいのですが」

「尊き存在の聖女様からの差し入れなんて嬉しいです! 僕だけじゃなく絶対団員も感激します!」

「まあ! そんなにお喜び頂けるなんて光栄ですわ。そういうご事情でしたら後日ゆっくりお召し上がりください」

私とサウロの三文芝居は上手くいったようだ。食べるのを拒否するために一芝居打ったわけだが、ミラベル嬢はこちらの意図を察した様子はない。サウロが巧みに煽ててくれたからだろう。

 ……このシュトレンは毒物検査した上で、即廃棄だな。疑惑の人物から贈られたものなど口にしたくもない。ティナの話にも似ているしな。

実はティナが思い出したミラベル嬢の疑わしい行動とは、飲み物の差し入れだった。

治癒魔法を使えなくなった日の前日に、ミラベル嬢が突然部屋を訪ねてきて、美味しい紅茶が手に入ったからとお茶に誘われたらしい。

その時は「珍しいこともあるものだな」と感じるくらいで、ミラベル嬢の気まぐれだと思ったという。

だが、私に問われて普段と違う言動という点でこの出来事が引っ掛かったそうだ。

私はその紅茶になにかしら仕込まれていたのではと強く疑っている。治癒魔法を使えなくさせる毒など聞いたこともないが、未知の毒や薬とう線は濃厚だ。
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