追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「……ところで、面会希望を頂いたわけですが、今日はどのようなご用件で?」

親交を深めるつもりは毛頭ない私は、歓談もそこそこに本題へと話を振った。

興が削がれて一瞬だけ不満げな表情を浮かべたミラベル嬢だったが、すぐに元の顔に戻り、用件を切り出した。

「実はご提案がありますの」

「……提案、ですか?」

「レイビス様は治癒魔法に大変ご興味をお持ちだと小耳に挟みましたわ。それで元聖女の平民にお会いになっているとか」

ティナと面識がある事実を掴んでいるとは、侮れない情報収集力である。

言質を取られたくなく、私は肯定も否定もせず、無言でミラベル嬢を見つめ話の先を促した。

「治癒魔法のことでしたらぜひ国内唯一の聖女であるあたくしがご協力いたしますわ!」

「……はい?」

「だって公爵家のレイビス様があんな役立たずの卑しい平民とお会いになるなど外聞が悪いですもの。侯爵令嬢であるあたくしがレイビス様には相応しいと思いますわ!」

 ……役立たず? 卑しい……だと?

その瞬間、自分の中で我慢の糸がプツンと切れた。

それまで無表情ながらも最大限丁重に振る舞っていたが、もうどうでもいい。ティナを悪様(あしざま)に言う女のために取り繕う価値は感じない。

「……話がそれだけなら帰ってくれ」

「え……レイビス様、突然どうなさったの?」

「帰れと言ったのが聞こえなかったのか? お前の提案など一考の価値もない。非常に不愉快だ」

私は態度を一変させ、冷たい眼差しでミラベル嬢を見据えた。

もう顔も見なくないと追い出そうとするが、ミラベル嬢は私の変貌に目を見開き、口をパクパクさせて硬直している。
 
そちらが動かないならと、私は時間の無駄とばかりにその場を立ち上がった。脇目を振らずに扉へ直進する。

すると、ハッとしたミラベル嬢も席を立ち、私の後ろ姿を追いかけきた。そしてなにを思ったのか突然突進するように私に抱きついてきた。

むわりとバニラのような濃厚で甘ったるい香りが鼻を掠める。纏わりつく香水の匂いに不快指数が上がり、眉根が寄った。

「……これはなんのつもりだ? 離せ」

「あたくし、レイビス様をお慕いしておりますの!」

「だから?」

「え……? あ、あたくしになにも感じませんか?」

「もちろん感じる。不敬罪にしたいほど不快だと。いくら聖女といえ、貴族としては私の方が身分が上だ。それを分かっての狼藉か?」

「え、あの、そんな……」

「離せ。もう二度と顔を見たくない」

上目遣いで見つめながら身を寄せてくるミラベル嬢を手荒く振りほどき、私はそのままその場を後にした。
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