追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
 ……今すぐ風呂に入りたいほど不快でたまらない。

ティナと身体的接触をした時とは全く違う。ティナに対しては不快などと一度だって思ったことはない。

 ……それにあの提案はなんだ。いくら治癒魔法に興味があるとはいえ、誰でもいいわけではない。

そう、私はティナがいい。いや、ティナ以外の相手とあの実験をしたいとは到底思えない。たとえそれが研究のためであろうと。

廊下をつかつか歩きながら、そこまで考えて私はふと気づく。

 ……もしかして私はティナを女性として特別に想っているのか……?

魔法の研究にしか心を動かさない私が、先程からティナに関して心を乱してばかりだ。

自分以外の男がティナを語れば焦立ち、白の法衣を見れば想像し、侮辱されれば怒りを露わにし。これほど自分に感情的な部分があるとは驚きだ。

研究のためなら私はどんな女であれ、恋人行為を厭わないゆえ、ティナとも平然に実験できていたのだろうと思っていた。

だが、そうではなかった。それをミラベル嬢に抱きつかれて明確に自覚した。

 ……ティナだからこそあの恋人行為を伴う実験はできていたのだな。そうでなければ、いくら研究とはいえ、私にはきっと無理だった。

おそらく私は無意識ながらも初対面からティナに好感は持っていたのであろう。それは彼女が十年もの間、聖女として真摯に活動していた事実を知っていたから。

そして実験の日々を通してティナを知るうちに、好感は好意へいつのまにか変わっていたのだろう。

こういった事柄に恐ろしく疎い私はずっと無意識だったが、ようやく今、自分の心の内を正しく読み解くに至った。

仮説通りの研究結果が出た時のような、ある種のすっきり感が体を駆け巡る。

その時だ。

――カラン、カラン、カラン!

領主邸内にけたたましい緊急警報の鐘音が鳴り響いた。

耳をつんざくような音に私は緊張感を漲らせ、足を止める。

それは、いつもの日常が引き裂かれゆくことを告げる不吉な報せだった。
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