追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
部隊がいる方に集中していた魔物たちが、いつのまにか私へ向かって走ってきているのだ。単身ではなく群れになりつつある。

その動きはまるで私に引き寄せられるようだ。

 ……いや、まるでではない。明らかに魔物達は私へ向かって突進している。

そう悟った時、私は一つの可能性に思い至った。

もしかすると私に魔物を引き寄せる香りが放たれているのではないだろうか、と。

魔物が好む香りなのか、魔物を興奮させる香りなのか詳しくは不明だが、いずれにしろ私に纏わりつく匂いに魔物が反応しているのは間違いないと思われる。

 ……そうか、あの時か。

先刻面会していたミラベル嬢が脳裏に浮かぶ。

最後に抱きつかれた際、確かにバニラのような甘ったるい香りを嗅ぎ取った。ミラベル嬢の香水だと思ったが、あの時に匂いを移されたに違いない。

 ……毒物ではなく、まさかこんな手を使うとはな。

これで確定だ。
ミラベル嬢はサラバン帝国の手の者で間違いないだろう。タイミングまで完璧だ。

「フィアストン魔法師団長様、加勢ありがとうございます! ご無事ですか⁉︎」

その時、私の接近に気づいたのであろう部隊の一人がこちらへ近づいてきた。

私は声を張り上げてその動きを制する。

「こっちへ来るな! どうやら私は魔物を寄せつける匂いを発しているようだ」

「なっ……⁉︎ 魔物寄せですと⁉︎」

「気づかぬうちに敵の手の者に付けられていたらしい。私の落ち度だ。だが、これを利用して私が囮になってできるだけ多くの魔物を引き寄せる。その間に部隊の者たちには少なくなった魔物を確実に仕留めてほしい」

「しょ、承知しました!」

作戦を告げ終えると、私は部隊へ向かっていた足を方向転換する。部隊からも、城壁からも離れた場所へ向かい始めた。

案の定、魔物も私の動きに合わせて方向転換をし出した。

どんどん魔物が集まってくる。
ある程度まとまった数が溜まったところで、私は大規模な火魔法を放った。

燃え盛る真っ赤な炎が一気に魔物達を呑み込む。辺りに肉の焼ける臭いが立ち込め、炎が消えてなくなった時には無数の魔物の死骸が転がっていた。
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