追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
やはり大規模魔法は魔物の大群に有効だ。手っ取り早く数を減らせる。

 ……だが、魔力量をかなり消費するな。頻発は厳しそうだ。

私はその後も魔物を多数引き寄せては、大規模魔法で駆逐するという作業を繰り返す。

途中で遠見魔法で部隊の様子を確認すれば、あちらも順調にあぶれた魔物を仕留めてくれているようだ。

 ……そろそろ王都から騎士団の応援もくるだろう。もう少しの辛抱だ。

フィアストン領の騎士団だけでは、いくら有事に備えて増員したとはいえ、やはり数が足りない。

この規模のスタンピートを阻止するには、どうしても加勢は必要だった。

それにサラバン帝国の敵襲が、この魔物の来襲で終わりとは限らない。

 ……絶対に次がある。スタンピートが落ち着いたところで、本命の武装集団が攻めて来そうだ。

サラバン帝国の侵略野望は果てしない。十年前の屈辱を晴らして勝利するため、きっと二手三手を用意しているだろう。

そう思えばこそ、やはり加勢は絶対必要だった。

そんな現況を踏まえながら、私は無心でひたすら魔法を放って魔物を屠る。

しかし、順調に削れていると思っていたが、その読みは甘かったようだ。

集まってくる魔物は後をたたず、終わりが見えない。一方で私の魔力は刻々と消費されていく。

 ……くっ。厳しいな。

魔力の急激な減少によって眩暈が起こり、私は一瞬ふらついてしまった。

そしてその一瞬が致命的だった。

目を離した隙に、群れの中から一体の大型魔物が抜け出して、猛烈な速さで私へ向かってきた。

気づいた時にはもう魔物は至近距離まで迫っており、なす(すべ)もない。魔法師は遠方攻撃は得意だが、接近戦は不得手なのだ。

時が急に遅くなったように流れ出す。辺りの物事が一つ一つゆっくりに見えた。

だというのに、突進してくる魔物の回避は叶わない。

次の瞬間、私は腹に激痛を覚えた。

恐る恐る見下ろせば、魔物が持つ鋭く尖る立派な太い(つの)が私の腹を突き刺していた。

頭から突っ込んできたのだろう。非常に深く沈み込んでいるようだ。

 ……これは……致命傷だな……。

魔物を匂いで引き寄せて集中攻撃させることで、私を始末する狙いだったのだろうか。そうであるならば敵の術中にはまり、悔しい限りである。

「レイビス!」
「団長!」

腹から滴る鮮血を他人事のようにぼんやり眺めていたら、霞行く意識の中で、聞き慣れた声を耳が拾った。
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