追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
どうやら魔法師団が増援を連れてきてくれたようだ。

「オラッ!」という怒声と共に、私を突き刺していた魔物が瞬く間に始末される。周囲に集まってくる魔物達も騎士達が剣を振り屠り始めた。

「レイビス! 気をしっかり持て!」

崩れ落ちた私を力強い腕が支える。
視界が霧がかかったようにぼんやりしてよく見えないが、おそらくリキャルドだろう。

「おい! サウロ、医者を呼んでこい!」

「でもこの重体では普通の治療では効果は望めませんよ……!」

「じゃあどうすってんだ⁉︎ レイビスを見捨てられっかよ!」

「奇跡のチカラなら……? そうだ、聖女に頼むしか方法はありません!」

「だが、聖女といえば……アレだろ? 敵の可能性が高いんだぞ?」

「背に腹はかえられませんよ! ダメ元で行ってきます……!」

朦朧とする意識の中、リキャルドとサウロのやりとりが聞こえる。

「ミラベル嬢は呼ぶな」と伝えたいが、もう口を開く力もないようだ。

しばらくすると、瞬間移動魔法でサウロが戻ってきたのだろう。再び二人の会話が耳に飛び込んでくる。

「……教会へ行ってきましたが……聖女、ダメでした」

「やはり敵か……? 断られた理由は?」

「外出先から戻って現在湯浴み中のため、再び外に出るには数時間要する、とのことです……」

「はぁ⁉︎ なんだそれ! ふざけてんのか!」

「同感です。数時間も待てません。ただ聖女のチカラがないとなると……あっ!」

「どうした?」

「聖女はもう一人いるじゃないですか! 団長によると治癒魔法が使える兆しもあったとのこと、もうそれに賭けるしかありません……!」

善は急げとばかりに再びサウロは瞬間移動魔法で飛んだのだろう。声が聞こえなくなる。

 ……ティナをここに呼ぶのか……?

ティナはまだ治癒魔法のチカラを取り戻してはいない。あくまで兆しがあっただけだ。

そんな状態で重傷を負った私を前にすれば、心優しい彼女は治癒できない自分を責め、傷つくのではないだろうか。

あの薄金色の瞳に涙を浮かべるティナを脳裏に描き、胸が締め付けられた。

 ……たとえ私が死んでも、それはティナのせいではない。だから自分を責めないでほしい。そう伝えたいのにそれが叶いそうにないのだけが心残りだ……。

意識が遠のいていく。

眼前に黒い幕がおりるように見えなくなり、意識も深い深い闇の底へ落ちていった。
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