追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「手伝うじゃと?」

「オレは素人ですから大した役には立たないでしょうが、怪我人を運んだり、暴れる者を押さえ込んだり、力仕事ならできます。そういう人手も必要じゃないですか?」

「確かにそうじゃが、しかし……」

「オレの命はここで救われました。だからかつてのオレと同じように怪我で苦しむ者達を一人でも助けたいんです!」

アーサーさんの心はもう決まっているようだ。思いのほか強く熱い想いを抱く彼に、わたし達はそれ以外反対する言葉を持ち合わせていなかった。

そして彼の想いは、話を聞いていた周囲の人々の魂をも揺さぶる。

「俺も先生達を手伝う!」
「力仕事なら任せろッ!」
「あたいも怪我人を清めるくらいならできるさ!」
「ここの処置室には世話になってるものね!」

次々に手伝いを申し出てくる人が現れたのだ。

教会を頼れない人達にとって、いかにこの処置室がなくてはならない場所なのかが伝わってくる。

結局、困惑しつつも先生とわたしはそのありがたい申し出を最終的に受け入れたのだが、この決断は結果的に正解だった。

そう悟ったのはそれから数分後だ。

「うぐっ、俺の足が……」
「血が止まらないの、死んじゃう助けて!」
「ワシもついにお迎えの時か……!」
「えーん、痛いよぉ〜」

アーサーさんの予想通り、老若男女問わず怪我を負った人々が多数運び込まれてきたのだ。その数は時間の経過と共に増えている。

まさに処置室内は、阿鼻叫喚の光景だった。

 ……これは想像以上に酷い事態だわ。

比較的軽症の人に話を聞けば、城壁を守る騎士達によって魔物の大多数は街への侵入を食い止められているものの、なにぶん数が多いため討ち漏らしが稀に発生しているらしい。その魔物が街中で暴れて被害を出しているそうだ。

魔物の暴走自体もまだ完全には止まっていないようで、まだこれから被害が拡大する恐れもある。

終わりの見えない治療活動が予想される中、わたしは必死に目の前の患者さんの対処にあたる。

十年の聖女としての経験を持ってしても、これほど壮絶な現場は初めてだ。まさに戦場と化している。

猫の手も借りたい今、手伝ってくれる人々の存在が本当にありがたかった。
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