追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
◇◇◇

それからどれくらい時間が経っただろうか。
体感的には数時間以上に感じるが、おそらくニ時間も経ってはいない。

その頃になってようやく運び込まれてくる怪我人の数が落ち着いてきた。

漏れ聞こえてくる話によると、フィアストン領に王都から増援が駆けつけたようである。

「ふう、一息つけそうじゃな」

「はい。それにしてもこの怪我人の多さから考えると、魔物の数は相当多いみたいですね……」

「そうじゃな。王都にいる騎士団や魔法師団も加勢しているようじゃしのう」

 ……王都の、魔法師団……。

その言葉に反応して、黒いローブを纏った、怜悧な光を瞳に宿す端正な面立ちの男性の姿が脳裏をよぎった。

宮廷魔法師団の団長であり、フィアストン公爵家の嫡男でもある彼は、間違いなくこの事態の中心にいるはずだ。

 ……レイビス様はご無事かしら……?
 
今までは目の前の患者さんに集中していたため、レイビス様を想う余裕がなかったが、一度考え始めると不安で心が押し潰されそうになる。

大切に想う人が危険な場所で戦っているかもしれないと思うと、気が気でなかった。

 ……きっと大丈夫よね? あのレイビス様だもの! 周囲が驚く魔法を次々に使って圧倒しているはずよね……!

不安な気持ちを拭うようにわたしは自分へ言い聞かせる。少しでも嫌な想像を振り払いたかった。

だが、そんなわたしを地獄に突き落とすような報せを持った使者が訪れる。

「ティナさん! ティナさんはどちらにいらっしゃいますか……!!」

突然、大衆浴場の出入口の方からよく通る男性の声が響き渡った。

この場には似つかわしくない上等な黒色のローブを身に纏っている。

男性は切羽詰まった様子で辺りをキョロキョロ見回しており、言動の節々に焦りが滲んでいた。
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