恋は揺らめぎの間に

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「え? 花江(はなえ)さん?」



ドアノブにかけた手が、大きくビクッと跳ね上がった。それは決して、静電気にやられたものではない。もっと大きな、雷のような衝撃…いや、横から人に思い切り殴られたといった方がいいのかもしれない。それくらい、経験したこともないような大きな衝撃が走った。

頭がガンガンする。心臓はバクバク波打っている。冬なのに、手には汗が滲み、頭には冷や汗が流れた。

どうして? どうしてアナタがここにいるの?

驚きと戸惑いで、言葉が何も出てこない。



「花江さん…だよね? 委員会とかで一緒だった夏木慶人(なつきけいと)だよ! …僕のこと、覚えてる?」



覚えている。笑う時はいつも目がキラキラしているところも。笑うと目尻に少し皺ができるところも。優しい声も。親切なところも。柔らかそうな、少し茶色がかった髪も。近くに来ると香るちょっと甘い洗剤の香りも。憎たらしいほどに、全部、全部覚えている。
忘れたくてもなかなか忘れられなかった。最近少し、思い出さなくなってきたところだったのに。



「……うん。」



私、今どんな顔をしているんだろう。



「覚えてるよ。…久しぶり、夏木君。」 
 


私の、初恋の人。

それから彼と何を話したのか、よく覚えていない。ただ、帰宅してすぐに駆け込んだ洗面台の鏡に映っていた自分の顔は、目を背けたくなるほど醜く、頬を上気させていた。 






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