恋は揺らめぎの間に



「それでそれで? どうなったの!?」



一華ちゃんが楽しそうに、ニマニマしながら尋ねてくる。



「………必死に堪えてたけど、珍しく声に出して笑ってくれた。」

「アッハッハッハッ! それは笑うわ! 静香ったら、最っ高ーね!」



声が大きい!とバイト先に遊びに来ていた一華ちゃんを注意する。ここは家からほど近いケーキ屋さん。今日明日はクリスマスなだけあって、お客さんが多い。一華もその一人だ。



「もうっ! 私、そろそろ仕事に戻るから。」

「はいはい。 でも何で静香ったら、クリスマスなんかにバイト入れちゃうのよ〜。」

「人手が足りないって言われたら、やるしかないじゃない。」



それに、どうせ慎司君も仕事だろうと思っていたから。実際夜勤だと言っていたので、明日の昼間は眠っているだろう。



「静香らしいね。 繋ぎ君との予定は?」

「今日は休みって言ってたから、帰ったらおうちパーティーかな。」

「いいじゃない、おうち。 それじゃあ明日はどうするの? もしかして初恋の君とデートだったりして?」

「そんなんじゃないよ。 昼間はバイトがあるし、ちょっと夜ご飯食べてくるだけだもん。」



それを聞いた一華ちゃんは、唖然としていた。冗談で言ったのに、と口をあんぐり開けて言う。



「…あのね静香。 それを世間ではデートっていうし、慎司君にさすがに失礼じゃないかな。」

「それが、慎司君が行っておいでって…。」

「はいい?」



そう。慎司君には実は言ってあるのだ。

夏木君の返事に困ってしまって、それで悩んでいるのを見抜かれて。またあの視線を向けられて、馬鹿正直に白状したのだ。



「夜遅くなると危ないから、9時までに帰ってきてって。帰ったら連絡してねって。」

「保護者か! それとも余程自信があるとか…? いやもう意味がわかんないその関係! 繋ぎ君が不憫! もうっ、キスの1つくらいしてやりないよ!」

「突然大きな声で何を言い出すの!!?」



お酒でも入っているのかというテンションで、一華ちゃんは終始ブーブー言いながらケーキを食べて、帰って行った。

そりゃ、経験豊富な一華からして見れば、何をしているのかと思われるのかもしれない。それこそ、キスの1つや2つ、と。しかし私は、したことがないのだキスだけの話じゃない。お付き合いだって…彼氏だっていたことがないのだ。

興味がなかったわけではない。むしろ早くからあった方だと思う。小さい頃から少女漫画を読み漁り、恋愛のイロハは漫画から学んだ。漫画に描かれるような恋に、凄く憧れていた。それは今だって変わらない。

でもだからこそ、お付き合いには慎重になるし、キスだって、大事に大事にとっておきたい。夏木君とできたら…なんて思っていた時もあるけれど。慎司君とキスなんて、考えたこともなかった。

そういえば、慎司君の唇、思ったより薄めで、なんか、ちょっとセクシーな……。

あの時唇が触れていたら…と指先で少し唇に触れて後悔する。思い出すだけで、顔どころか身体全体に火がついたように熱くなったからだ。

いやいやいや!
キスなんかしたら、それこそ彼氏彼女みたいじゃない!
私達はそんな関係なんかじゃ………



じゃあ、どんな関係よ?



頭の中の一華ちゃんが話しかけてくる。それを振り払うように頭を振って、追い出した。











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