恋は揺らめぎの間に
結論から言うと、イブは特段何も起こらず、穏やかな時間が流れていった。
バイトが終わる頃、寒い中慎司君が迎えに来てくれていた。それだけでもありがたいのに、折角だからとイルミネーションを見ながら歩いて帰ってくれた。途中で買い出しをして、一緒に夕飯を作って、食べて、プレゼント交換をして。ダラダラ映画を見ながらお菓子を食べて、そうして気づいたら炬燵で2人とも寝てしまっていたのだ。
「おはよ。」
目を醒ますと、慎司君がじーっとこちらを見ていた。くすぐったくなるくらい優しい眼差しで。
「おはよう。」
慎司君と過ごす毎日は、とても穏やかだ。一緒に暮らす前も、暮らしてからも。一緒に暮らしている今の方が、心も身体も健康的で満ち足りた生活をしているような気がする。
「それじゃあ、行ってくるね。慎司君も気をつけて行ってきてね。」
これから勤務に備えて二度寝するという慎司君に声をかける。すると毛布をかぶったまま、のそのそと玄関までついてきた。ただでさえ背が高いのに、なんだか新種のモンスターみたいだ。
「静香。」
ん?と振り返ると、首筋をすっと慎司君の手が撫でていった。下ろしていた髪を後ろにやって、慎司君は首元をまじまじと見ている。そこには昨日慎司君がくれたネックレスが輝いていた。
「へ、変かな? 早速つけてみたんだけど。」
しばし沈黙が続く。
慎司君の指が、ツツツとチェーンをなぞって滑っていき、中央に下がっている花の部分で止まった。くすぐったくてピクッと反応してしまうと、いつも凛々しい慎司君の顔が、一瞬だけふにゃっとなって。
「よく似合ってる。」
たった一言。だけど、重みある一言だった。
「あ、ありがとう。 行ってきます!」
私は逃げるように玄関を飛び出した。
鏡を見なくたってわかる。冬の風がこんなに心地よく感じるなんて…
私、顔が真っ赤だ。
きっと、先ほどまで慎司君が触れていたところも。
「〜っ!」
最近の慎司君は、一体どうしてしまったのか。ふと向けられる表情が、あまりにも優しく甘ったるい。
それから私も、少しおかしい。慎司君の最近の行動に、胸がキュウッとなることが増えてきた。夏木君の一挙一投足に未だに胸が波打つように。最近の慎司君の言動にも、似たような反応を身体が起こすのだ。