恋は揺らめぎの間に



以前慎司君と来たクリスマスマーケットの横を通り過ぎて、高級店が並ぶ広場へやって来た。そこにも巨大なツリーがあり、少し上品な雰囲気が漂っている。そのツリーをすぐそばで、ガラス越しに楽しめるカフェに夏木君はエスコートしてくれた。



「花江さんとこうして会うのは初めてだよね。」

「うん。 なんか、変な感じするねっ。 私が知ってる夏木君は、ブレザーを着ているから。 」

「お互いね。」



それぞれ注文を済ませて、昔話が始まった。高校の時の自分や友人、先生の話。おかげで気分は高校時代だ。

私は次々に夏木君を追いかけて過ごしていた日々を思い出した。補講の時は、夏木君を見ていても怪しまれないように必ず後方に座った。何かしら用事をもらって、夏木君の教室の前を通っていた。体育大会のフォークダンスで順番が回ってきた時は、せっかく公的に手を繋げたのに、手汗が気になってちゃんと繋げなくて。
まだあの日々から1年も経っていないのに、随分と懐かしい。まさしく青春したいたと思う。

高校、楽しかったなぁ…。



「花江さん、いい機会だからお願いがあるんだけど。」

「何でしょう?」

「折角だから、名前で呼び合いませんか?」

「え?」



な、なんで?

すぐに返事を返せないでいると、夏木君が慌て始めた。



「同じ高校から来た人を他に知らないし、折角こうして会えたから仲良くなりたいなと…。 ごめん、困らせた…?」

「ううん! ただ、びっくりしちゃって…。 あの、本当にいいの? その、彼女さんとか……」



夏木君は目をパチクリとさせる。



「彼女はいないから安心してよ。 高校の時も、今も。」

「…卒業式の時の、あの人は? 告白、されてたよね?」



それを今更聞いてどうするのかという思いを、ずっと聞きたかった思いが押しのけた。

私がアナタを忘れなければと思った、あの日のこと。
聞いたところで変えることはできない、過去の決断の契機。



「あー…。 そんなこと、あったね。」



夏木君にしては珍しく、疲れ切ったような、困り果てたような顔。



「断ったんだけど、あの子、僕と付き合ってるって言ってまわってたって聞いたよ。 もしかして、それを聞いちゃった?」

「じゃあ…」

「あの子には付きまとわれていて困ってたんだ。 もちろん付き合うわけないよ。」



じゃあ、私の勘違い……?

鈍器で頭を殴られた気分だった。



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