恋は揺らめぎの間に
「お待たせしましたー…って、何この雰囲気!」
目の前に料理が運ばれてきてハッとする。
「慶人、お前まさか、もう何かしたの!?」
「そんな人聞き悪いこと言わないでよ…。」
ウェイターさんと随分親しそうに話す夏木君に驚いて、いつの間にか俯けていた顔を上げる。そして更に驚いた。なぜならそこにいた人は、
「高橋君…?」
慎司君の友人で、慎司君と一緒に勉強会に参加していた人だったから。
「え? 知り合い?」
「え!? うおっ、マジか! …うっす。」
向こうも私に気づいたのだろう。ぺこっと頭を下げた。高橋君は私を高校の時に少し知り合った、友人の友人だと説明して、すぐに店の奥へ引き返していった。
「なんなんだアイツは…。 話の途中でごめんね。 健は大学に入ってできた、同じ学部の友達なんだ。 それでこの店のことを教えてもらって。」
「そうだったんだ…。」
「うん。 でもびっくりしたよ。 まさか二人が高校の時の知り合いだなんて。 世間は狭いって本当だね。」
夏木君と同じように、私は上手く笑えているだろうか。
心臓がそれまでと違う音を立て始めていた。現実に一気に引き戻されたような、そんな感覚がした。
あの日。私が夏木君とちゃんと話していたら、どうなっていたのか。夏木君が卒業式の彼女と付き合っていたら?いなかったら?私はどうしていただろうか。慎司君とあの日、会わなかったら……。
ここ最近考えていたことを、全てタラレバの話で、過去のことが明るみになったとしても、今この現実は変わらないのだと突きつけられた感覚だった。
「……あのさ。」
夏木君の声にハッと我に返る。
「花江さんはいるの? 彼氏。」