恋は揺らめぎの間に
「すんません、よろしくお願いします。」
「はいはーい。 奥様は大切にお預かり致します!」
バタン、と扉が閉まる。その間際、心配そうにこちらを見つめ続ける慎司君の姿が見えた。しばらくして、ブォーンとバイクが去る音が聞こえる。それが完全に聞こえなくなるのを待って、一華ちゃんは言った。
「あなた達、喧嘩でもしてるの?」
年末の特番を流しながら、持参したお菓子をもりもりと頬張っていく。
実家を離れて初めての年末年始は、地元に帰らず、大学近くに住む一華ちゃんの実家にお邪魔することになった。慎司君は年末年始は仕事で帰れないそうなので、一人で過ごすよりかはと一華ちゃんの家まで送り届けてくれたのだが……
「バイクに乗せてくれるかくれないかで喧嘩したぁ?」
「痴話喧嘩かっ!」と肩を小突かれる。
出発までは至って普段通りだった。ただ、一華ちゃんの家までバイクに乗せてもらうかもらえないかで、珍しく喧嘩したのだ。
慎司君は通勤時にバイクを使う。座るスペースもあり、私の分のヘルメットもあるので、それで行こうと提案をしたが、断られたのだ。このやりとり自体は初めてではないのだが、私がムキになってしまったせいで喧嘩にまで発展した。というよりは、私が一方的に怒ったままでいる。
「どうしたの? 何かあったの?」
「…色々。」
「詳しく聞こうじゃないの。」
私はクリスマスに慶人君から告白されたことを話した。その返事を保留にしていることも、それを含めて慎司君には何も言っていないことも。
「静香はこれからどうしたいの?」
「…わからない。」
告白された瞬間は舞い上がった。信じられないくらい嬉しかった。慶人君を含めて世界はキラキラして見えたし、心臓はドキドキバクバクした。はい、と返事をしてしまいそうになった。けれどその時、首元で揺れた花のネックレスに意識がいって、返事ができなかった。
「なんだか2人と離れた方がいいような気がする…。」
「2人と離れたいの?」
首を横に振る。
「そうじゃないけど…。」
「煮え切らないわねぇ。 好きな方と付き合えばいいだけの話じゃない! 正確に言うと慎司君は繋ぎなんでしょう? だったらそれで問題ないと思うんだけど。」
「………好きってなんだと思う?」
「ワオ。 哲学キタ。」
「とってるんでしょ? 恋愛の哲学の講義。」
そのために一華ちゃんの元へ転がり込んで来たといっても過言ではない。一華ちゃんは大学で大人気の恋愛の哲学の講義を受けているのだ。