恋は揺らめぎの間に
3
「一華ちゃんに皆さん、どうもお世話になりました。」
三が日も最後の日。慎司君がお迎えに来た。一華ちゃん一家は総出でお見送りに玄関まで出てきてくれていた。
「寂しいわぁ。 せっかく可愛い娘が出来たと思ったのに、もう帰っちゃうなんて。」
「心外だなぁ。 アナタの可愛い娘はここですよー。」
一華ちゃんのお母さんは、一華ちゃんをぐいっと押しのけて前へ出る。
「またいらっしゃいね。 実は一華が友達を家に連れて来るのは初めてなの。 これからも仲良くしてくれると嬉しいわ。」
「ちょっ! お母さん! 余計なことを…っ!」
「だからねぇ、彼氏さん。 菓子折りなんて、気を遣わなくていいのよ?」
「いえ、静香がお世話になりました。」
ありがとうございましたと、自分が見上げるほどの背丈の慎司君が深々と頭を下げたことに、一華ちゃんのお母さんは機嫌を良くしたようで、更にたくさんのお土産を追加で持たせてくれたのだった。
来た時と同じように、慎司君はバイクを押しながら歩いて帰る。角を曲がって、手を振り続けてくれていた一華ちゃん一家が見えなくなった時、急に慎司君は立ち止まった。
「ん。」
差し出されたのは、私のヘルメット。
「乗って。」
突然のことにぽかんと口を開けてしまう。しかし、段々と、楽しかったここ数日のおかげで忘れていた年末の喧嘩を思い出して、イライラしてきてしまった。
慎司君は忘れているのだろうか。頑なに私が乗ることを拒んでいたことを。
「…この前は乗せないって言った。」
「…ごめん。」
「無理して乗せなくていい。」
自分で言っていて、随分幼稚だなとは思った。だけど、止められなかった。
どうしてだろう。 泣きたくなってくるのは。
「静香。」
再び先に歩き出した私を、慎司君がすぐに引き止める。
「ごめん。 静香がそんなに乗りたいと思っているとは思わなくて。」
…違う。
「遠出はできないけど、近くなら乗っていいから。」
そういうことではない。 慎司君は何もわかってない!
「静香と、初詣に行きたい。」
その言葉に振り返ると、何故か慎司君も泣きそうな顔をしていて。私はヘルメットを受け取った。