恋は揺らめぎの間に
一華ちゃん達と合流して、夜ご飯を食べて、4人でイルミネーションに彩られた園内を散策した。
「…大丈夫?」
その間、一華ちゃんから何度も声をかけられた。それくらい私はずっと挙動不審だったのだろう。
あれからずっと、慶人君のことがまともに見られなかった。
見ると思い出して、心臓がドキドキバクバクして、身体が熱くなるから。凄く、今まで以上に、慶人君がかっこよく見えるから。
「花江さん。」
いつの間にか、高橋君が隣に立っていた。一華ちゃんは前の方を、慶人君と話しながら歩いている。イルミネーションのトンネル。ここを歩いていけば、園の出口もすぐそこだ。
「牧瀬と、最近どうしてる?」
驚いて顔を上げる。いつも笑顔の高橋君が、少し困ったような、何かを言いたげな、少し真面目な顔をしていた。
高橋君は何を、どこまで知っているのだろう…。
高橋君は慎司君と友達だ。以前慎司君からは腐れ縁だと聞いているから、慎司君の友人の中でも仲の良い部類なのだろう。
高橋君のこの顔は…友達を、案じている顔だ。
「…慎司君は今出張みたいで、しばらく会えてないの。」
「そっか。」
「高橋君は、慎司君から何か聞いてない?」
高橋君はじっと前を見て、黙ってしまった。しばらく何かを考え込んで、「牧瀬は…」とゆっくり話し始める。
「牧瀬は昔からぶっきらぼうだし、何考えてるか分かりにくいヤツだけど、スゲェ熱いヤツなんだ。 情に厚い…そんなヤツでさ。」
一度だけ、慎司君の野球の試合を見に行ったことがある。その時、懸命にボールを追いかけてキャッチしていた慎司君を思い出した。野球が好きだって、全身で表していた慎司君を。
「俺は慶人とも友達だけど、牧瀬とも友達なんだ。 だから、花江さんにこんなこと言ったら酷だってわかってるんだけど! どっちも大事にしてほしいっていうか…なんていうか……。」
「うん…。」
「牧瀬、ああ見えてマジで花江さんのこと大事にしてっから! だからって、慶人を振ってくれってわけじゃないんだけど…。 なんか牧瀬、最近様子がいつにも増して変だから、牧瀬ともちゃんと話してくれないかな!?」
慶人君がちらちらとこちらを振り返って見ている。
「もちろん、ちゃんと話すつもりだよ?」
何を?
私自身、話さなければならないのはわかっているけれど、何を話したらいいのかさっぱりだった。
慶人君から告白されましたって言う?言ったところで、だから何?となるだろう。慶人君からキスされたって…それも同じだ。
慎司君とは距離を置く?
そんなことは考えられない。ズルいと思うかもしれないけれど、私は慎司君の傍にいることの心地良さを今更自分からは手放せない。
慶人君と付き合いたいとも今は思っていないから、尚更必要性も感じない。
私、一華ちゃんの言う通り、凄い悪い女になってる気がする…。
帰りの電車内の空気は、なんだか重たい雰囲気が流れていた。
黙り俯く私。原因を知っているせいで気遣うことができない慶人君。気まずそうな高橋君。一華ちゃんはなんとなく状況を読めているのだろう。隣に座って、黙って私の手を握ってくれていた。
「じゃあ、また…。」
「静香、またね。 また、話そ?」
帰り道が別の一華ちゃんを、同じ方向だと言う高橋君が送ってくれることになった。私はもちろん、家が隣の慶人君と一緒だ。