恋は揺らめぎの間に

4




慎司君は何も言わない。目も、合わせてくれない。慎司君が今何を考えているか、わからない。

お互い黙ったまま、何分が経っただろう。

鞄の中に入れてある携帯が、明るいメロディを奏でる。



「静香ちゃん…!? そこにいる!? 大丈夫!?」



扉の向こうから慶人君の声がした。きっと着信も慶人君からだろう。留守番電話サービスに繋がっては掛け直してきているのだろう。止まっては、何度も流れる明るいメロディ。この場に似つかわしくないメロディ。

ドンッと扉が外から叩かれた。



「静香ちゃん!!」

「…慶人君。」




と呟くと、握られた手にぐっと力が込められた。思わず痛っと声を上げると、パッと手が離される。その時ちらりと見えた顔は、なんだか悲痛な面持ちで。慎司君はくるっと私に背を向けてしまった。



「ごめん。 頭、冷やしてくる。」

「ま、待って! 私も……!」

「外にいたのは、ナツキ…だよな?」



伸ばしかけた手を、ゆっくりと下ろす。こくりと頷くと、慎司君は背を向けたまま言った。



「上手く言っとくから。」



ぽんと頭に大きな手が、優しく乗せられる。



「冷えてるから、ちゃんと風呂入って。 先、寝てて。」



今度は静かに閉まる扉。ゆっくり扉に近づくと、話し声が聞こえる。着信音はいつのまにか止んでおり、しばらくすると隣の部屋のドアが閉まる音がした。


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